Tくんたちが、熱く討論をしているのを見た。
めったに議論などしたことがなさそうなTくんなので、なにごとならんと近寄ってみると、どうも「目が回るということ」について話しているようだ。
Tくんの周囲にいる数人も、まあどちらかというと論理的な感じの男子ではなかったので、こりゃおもしろそうだと思ってわたしも参加し、一緒になって「ふむふむ」と聞いてみる。
彼らが議論していたのは、
【前転を10回したあと、後転ができるかどうか】であった。
Tくんは家でふとんを2枚つなげ、行ったり来たりの前転を10回やって弟に自慢した。
すると、今度は後転ができるかどうか、という話になった。
弟はできないので、Tくんは自分が見本を見せようとして後転をしたところ、
ぐにゃぐにゃ
になったという。
からだが、たこのように、ぐっにゃぐにゃ になったそうだ。
Tくんが言うには、
それはつまり、直前まで前転をひっきりなしに繰り返したので、脳がエラーを起こしていたのだろう、ということであった。
「ほんとうだって。前転を10回繰り返したあとに、すぐ後転をしてみたら、ぜんぜん、できなかった。だれでもそうなるはずだ」
「えー、Tくん、もともと後転ができなかったとかじゃなくて?」
「そうそう。俺は後転はできるんだって。でも、前転10回のあとは、無理だった」
そこで、次回の体育の時に実験をしてみたい、という。
先日、体育館での体育の授業をやったときのこと。
彼らはその約束を覚えていて、
「先生、みんなで前転10回やろう」
という。
「そのあと、だれか後転ができるか、しらべてみようよ」
で、やってみましたよ。
すると、まず前転10回をやれた子がすくなかった。
途中の6,7回くらいで、目を回す子、方向を失う子もいる。
気持ちわりい、とやめてしまう子も。
しかし実験精神に富んだ数人の猛者もいて、もちろんTくん本人もまじめに10回前転をした。
Tくんと他の数名が、後転にチャレンジした。
みんな並んで、おもむろに、えへらえへら、と薄い笑みをうかべてマットに背を向けると、
そのまま後転をしたのですが・・・。
一応、最初の1回はできたのですが、
2回目に、ほんとうに
ぐにゃーーー
と、だれもが薄笑いをうかべたまま、床にへばってしまい、
チャレンジした全員が全員とも、
「か、か、からだがーーー、うご、うごかねええええ」
と言って、酔っぱらった感じになりました。
みんな大笑い。
危険なので、みんなマネしないように、と釘をさしておきました。
ふつうの人は、脳がエラーを起こすのではないでしょうか。
前転10回、すぐに後転をやると・・・。
体操選手の内村航平さんなら、大丈夫なんでしょうけど。
Tくんは来年の夏の自由研究で、
「人間はなぜ目がまわるのか」
を研究するそうです。めでたし、めでたし。