この時期思い出されるのが前任校のこと。
ちょうど、今くらいの時期でした。

教頭先生がぼやいていたのです。

「保護者から結構来てるねー」

今の時期です。ピンときますか?
そうです。運動会のことです。

その年は、9月の下旬に運動会をしたのですが、
暑すぎたと。10月にやれないのかと。
保護者からの電話があったのです。

私は内心、そうだよなあ、と思ったのを覚えてます。

暑かったのですね。
子どもたち、みんなきつそうでした。

言い訳をすると、私も一年の計画を立てる会議に出てたので、分かるのですが、なかなかスケジュールを組むのも大変なので・・・

10月は忙しいのです。
6年生が修学旅行に行くからです。
また、5年生も宿泊学習に出かけます。
養護教諭が2人いる学校は少ないので、5年と6年が同時には行けませんから、2週間ほどずらしています。10月の終わりと11月に予定していますが、これの準備だけでもものすごく神経をすり減らすのです(子どもも大人も)。
10月に運動会をやっていては到底間に合わない。

加えて、2学期制となり、10月の最初には通知表を渡さなければいけません。少なくとも9月中には、運動会を終わらせたいのです。暑さは覚悟の上です。そのかわり、午前中で終わるように計画しました。

この暑さの中で、運動会を1日中やっていたら、この地域の保護者も子供も全員くたばってしまうかも。
もちろん、当時もそのような懸念はありました。職員会議でも、心配する声は出ていたと思います。しかし、行事の都合を考えると、当時はこうするほかありませんでした。あの時はたしか、11月に持久走大会もやってましたか・・・。行事でがんじがらめになっていた面もありました。今思えば。

9月下旬だと、中止になる可能性だって残っています。
熱中症の危険性が高いと言うふうに判断されたら、そもそも延期になる覚悟でした。
今は熱中症の指数を測りますからね。
それでも、この時期にやると言う年間計画は崩すことができませんでした。

苦情受け付ける教頭先生はどんどんと疲弊していきます。ため息をついてから受話器を取り上げ、声の調子をがらりと変えて、保護者のクレームに対応する教頭先生。頭が下がりました。

これは今でもそうなのですが、運動会については、まだまだいろいろなクレームが寄せられます。
次のクレームは、多分全国の小学校に届いているんじゃないかと思います。
それは、なぜ騎馬戦を辞めたのかと言うものです。これも多い。みんなどちらかと言うと残念なニュアンスです。

あと、昔やっていた棒倒し。あれが見たかったと言うおじいさまからの電話も。
これは、その電話を受け取った先生が目の前にいたので、はっきりと覚えています。

「棒倒しはやらんのかね?男の子はあのぐらいのことをやって、発散させんといかん」

・・・と、言われたそうです。
言葉遣いはとても丁寧な紳士の声だったようですが、何度説明してもやめたことが、腑に落ちなかったみたいだ、と言っていました。
教頭先生がとても丁寧に対応されるので、暇つぶしに電話をしてきた可能性もあります。

それにまして、1番は、組体操のことですね。
もうとっくのとうに、都市圏では廃止された組体操。日本の田舎ではまだやっているんですナ。

私の今の勤務校でもやっていますよ。
さすがにこれはうちの地元では、やめると言う判断にはなりません。もっと都会に行けば違ったでしょうが、ひいじいちゃん、ひいばあちゃんも、この学校に通ったのですから、このような土地では、何よりも伝統が大事なのです。

今年の組体操、6年生の先生たちは、胃が痛くなるほどまで会議に会議を重ねています。
そして、組み体操という名前を残しつつ、実際にはほとんど危険と思われるような表現を行わないように計画しています。苦痛に耐えるようなポーズを全て外したい、とある先生が言ってました。

ところが、それだと迫力がない、と言うクレームが届く。

子供たちが苦痛に耐える顔が見たいらしい。
こういうニュアンスのクレームは、年配50代60代の男性が多いです。
つまり、これはじいちゃん、です。子どもたちの。

世の中のおじいちゃんは、棒倒しと騎馬戦と組体操が大好きだというわけ。
そして、子供たちが苦痛に耐えている姿を見ると、感動する。

・・・

オリンピックでも、スポーツ中継でも、選手が苦痛に顔を歪めると話題になりますね。
MLBの大谷選手が、デッドボールを膝に当てて、痛さで顔をしかめている写真が、インスタに掲載されると、ものすごく反響を呼びました。その表情が話題になったのです。

しかし、法整備が整っていません。
怪我をしたとき、誰が責任を取るのでしょうか?
全国を見ると、実際に訴訟も起きています。
今の教員は、それに耐えられるようになっていないのです。つまり法律では守られていないわけです。

給食の時間が職員にとっては休憩に当たると最高裁判所で決定付けられたのもありますが、実際に子供たちを放って休憩している職員は誰1人としていません。このタイミングで子供たちが怪我をしたり事故に遭ったとしても、職員は休憩時間にあたると法律で定められているために、本来なら、保護者はそのことを認めなければなりませんが、そうかといって、子供たちを保護下に置いていることには変わりなく、その時間に十分な指導しなかったということで、その教員は罰せられてしまうでしょう。

国としては、休憩時間だと建前を作りながら、実際には市の教育委員会レベルで懲戒の対象となる。つまり教員と言うのは全く守られないのです。

それにしても、なぜ都市部の学校では組体操を止めることができるのでしょう?私の知り合いの神奈川県の教員も、そんなものはとうの昔にやめていると連絡をくれました。

その人はこう言いました。
「1人でも大怪我したら、次の年からはなくなるよ」
しかし、だからといって、誰かが大怪我をするのを待つわけにはいきません。

私は個人的に組体操で頑張る子どもたちを見るのは大好きです。私自身も50代のおっさんですから、孫が組み体操で、立派にサボテンを決めたら感動して写真を撮るでしょう。

それでも、やはり、様々な条件が整っていない以上、小学校で組体操を続ける事は無理なのです。本来は。

このことで1番大変な思いをしているのは、全国の小学校の教頭先生、校長先生だろうと思いますネ。

まぁこういうことが積もり積もって、教員を志望する若者が年々減ってきてしまい、実際にはいくら募集をかけても集まらない状況が起きてきてしまっています。若者が働きたくないと思う職場は、持続可能ではないと言うことです。

しかし、ここで文科省を叩くのはよくありません。私の知り合いの先生は、文科省の先生たちも、本当によくわかっていて、戦ってくださっていると断言しています。

官僚がいけないんだとか、官僚がサボっているとか、官僚の頭が悪いのだと言う人を私は信頼しません。夜の11時に、文科省の次官からメールが届いたことがあります。そんな深夜にメールを、受ける方も受ける方ですが、出す方だってその時間に仕事をしていたわけです。
あれだけ仕事をしている人たちを、私は批判する気にはなりません。

あの時、文科省の役人だって、一人ひとりを見ると、孤独なんだなと思いましたヨ・・・。何かもっとこう、人々が幸せになれる社会システムって、何かないかなぁと、しばらく考えたくなりますね。


IMG_0627