自治会の集会に出ていたときのこと。
日曜日の夜の集会で、私は自治会の1つの役回りを担って役員をしていたので、その場にいました。

すると、会計のことで少し決まっていないところがあり、ルールをしっかり決めないといけないと言う話が出ました。

私はあぁそれならルールを決めたらいいんだなと言う程度にしか聞いていなかったんですが、少しテンションの上がったその人は、割と、はっきりと強い口調で「困るんですけど!」・・・と言ったのです。

その方は、その会計の細かな点について、はっきりと詳細を知らされていない。なので、私は困ると言いました。
全体のことを進めている委員長さんが、では、そこは今回はもう締め切りが過ぎていて、その活動自体が終わっているので、次の役員さん達に伝えておきますねと言いました。

私はそれで済むかと思ったんですが、その方は

「いやそれだと困るんですけど」

と再び言いました。
もし、新しい役員さんが、そのことをちゃんと理解していなくて、自分が疑われたらたまったものではない、と。

委員長さんは、大人の対応。
恵比寿さんのような柔和な笑顔で、

「わかりました。ご心配なんですね。大丈夫です。私がしっかりと伝えておきますから大丈夫ですよ。」

と、繰り返しました。

私が印象に残ったのは、それでもその方が、

「でも」

と、続けたことです。

「それでも、もし、その方がきちんと理解できなくて、私がしっかりやってないってなったら、どうするんですか?それだと困るんですけど!」

委員長さんの柔和な笑顔が少しずつこわばっていくのがわかりました。
それでも委員長さんは、やはり70年を生きた人生のベテランだったので、やはり仏さんのような笑顔で

「わかりました。心配なんですね。大丈夫ですよ。分りました。大丈夫です。もしそれでも何か疑われるようなことを言われたんだったらすぐに私に連絡してください。私がきっちり説明しましょう」

と、話を締めにかかりました。

私は連日の学校行事の準備などで疲れ果てていたために、ほとんど眠りそうだったのですが、実際のところほとんど眠りかけていたのですが、しっかりと目が覚めたのは次の言葉でした。

「いや、でも、疑われたらどうするんですか?困るんですけど!」

私は、困るんですけど、の中身ってなんだろうなぁと、とても哲学的に考え始めました。

困るって、一体なんだろうなぁ?

もし私が委員長さんの立場だったら、なんと返すだろうなぁ、と。

もし私が委員長さんの立場だったら、きっとこういうに違いありません。

ああ、そうですか。

と。

困るんですけど、という人に対して、申し訳ありませんが、私が出せる回答はたった一つしかありません。

ああ、そうなんですか。

私はそこで思考停止して、きっと穴の開くほど、その人の顔を見るしかありません。きっとその人の顔を見て凝視して、空中のただの一点を見つめるように、その人の顔を見て、ああ、そんなんですね、と言うだけです。たぶん。

たとえあなたが困っても、他のみんなは誰も困らないし、何の問題もないので、あなたも困らなくてもいいんじゃないですかね。別に困る事は何一つないので。

・・・という感じで。

それに比べて、委員長さんのなんと対応の素晴らしいこと。
人は70年生きていると、こういう対応ができるようになるのです。

委員長さんは立ち上がって、大きな身振り手振りを示しながら、もう本当に仏様と恵比寿様と大黒様が生まれたての赤ちゃんを抱くように、柔和な笑顔をさらに柔らかくした感じで、

「だあいじょうぶ、だあいじょうぶ、ちゃんと、ちゃーんと、私の方で、私の方で、私の方で、大丈夫です。大丈夫です、ちゃんと伝えますからね。心配されなくても大丈夫ですよ。決してあなたを責める事はありません」

と言いました。

すると、驚くべきことにその方は黙って座りました。

私はそれを見て、最後の言葉が効いたナ、と思いました。

あなたを責めません。

人はこれを言って欲しいのですね。
要するに、彼女は、誰かに責められることが不安だったんですよ。
誰もあなたを責めないよって言って欲しかったんですね。
大変に勉強になりました。

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