夜遅く、真っ暗になってからの学校は、昼間よりもいくぶん怖くなる。
むだに広い空間、廊下はずっと向こうまでつづいているし、すべての電灯が消えると本当に漆黒の闇だ。廊下のはるか先の方をみると、その先は闇の中に溶け込むように消えている。
「ちょっと忘れ物とりに、行ってきます~」
職員室に残っているS先生とT先生。
もう職員室に2人しかいない。
お二人とも、無言でキーボードを打っている。
S先生がちらっとこちらをみて、「おお」と少しだけ反応してくれた。
廊下の電気をつけることはできる。でも、つけない。つけられない。
廊下の電気のスイッチを探すのが一苦労なのだ。探せないから、つけられない。
なにせ、すでに真っ黒の闇の中。壁がどこかも分からなくなってしまっている。
そう、学校という場所は、むだに廊下が広いのだ。
こんなとき、スマホが役に立つ。
スマホを片手に構えて、印籠のようにかざすのだ。
すると、スマホの画面の明るさで、ある程度の先が見通せる。
3mは見えるかな。その先は真っ暗だが。
3階の、自分の教室に忘れ物を取りに行く。
夕方、まだうっすらと明るいうちに取りに行けばよかった、と悔恨の念がわく。
もう外は完全に真っ暗だ。なんだか気味が悪い。
校舎内にはもう誰もいないことはわかっている。
わたしはスマホの画面をかざしながら、少しずつ進む。
すると、急に人の顔が目に入る。
!!!っおおお・・・ぅ!!
うめくわたし。
息が荒くなる。
人の顔は、防災ポスターの人間の顔だった。
スマホの灯りに照らされて、いやおうにも不気味に浮かび上がっている。
くそう、こんなポスターに驚いてしまうなんて。
さらに、
ぶびびびびびびbbb
という不気味な音!
ごきぶりか、蛾か、こうもりか。
あわててスマホを向けると、蛾が窓際でぶるぶる震えながら飛んでいた。
もう、こわすぎて声もでない。
のどがかすれてくる。
あわててつばを飲み込むが、もう階段を歩く足に、力が入らない。
どうすればいいのか・・・。
教室に入って電気をつけると、急に気持ちがでかくなる。
明かりというのは、偉大である。人間に勇気と希望を与えてくれる。
黒板にメッセージをかき、さらに忘れていたプリントをとり、もう一度意を決して電気を消す。
あとはスマホの明かりだけがたよりだ。
できるだけ足元だけを照らし、壁に貼ってあるポスターがむだに見えないように努力する。
泣きそうになりながら階段を降り、職員室をめざす。わざとではないのに、ごく自然に足が速くなってくる。
だが遠くから迫ってくる廊下の闇の漆黒は、はかない小さな四角い画面の光よりもはるかに巨大な威圧感をもってわたしを取り巻こうとする。
あと少し、と思ったとき。
わたしは階段を踏み外した。
イッテーッ・・・痛ー・・・
早く帰ろう。
夜の学校は怖すぎる。

むだに広い空間、廊下はずっと向こうまでつづいているし、すべての電灯が消えると本当に漆黒の闇だ。廊下のはるか先の方をみると、その先は闇の中に溶け込むように消えている。
「ちょっと忘れ物とりに、行ってきます~」
職員室に残っているS先生とT先生。
もう職員室に2人しかいない。
お二人とも、無言でキーボードを打っている。
S先生がちらっとこちらをみて、「おお」と少しだけ反応してくれた。
廊下の電気をつけることはできる。でも、つけない。つけられない。
廊下の電気のスイッチを探すのが一苦労なのだ。探せないから、つけられない。
なにせ、すでに真っ黒の闇の中。壁がどこかも分からなくなってしまっている。
そう、学校という場所は、むだに廊下が広いのだ。
こんなとき、スマホが役に立つ。
スマホを片手に構えて、印籠のようにかざすのだ。
すると、スマホの画面の明るさで、ある程度の先が見通せる。
3mは見えるかな。その先は真っ暗だが。
3階の、自分の教室に忘れ物を取りに行く。
夕方、まだうっすらと明るいうちに取りに行けばよかった、と悔恨の念がわく。
もう外は完全に真っ暗だ。なんだか気味が悪い。
校舎内にはもう誰もいないことはわかっている。
わたしはスマホの画面をかざしながら、少しずつ進む。
すると、急に人の顔が目に入る。
!!!っおおお・・・ぅ!!
うめくわたし。
息が荒くなる。
人の顔は、防災ポスターの人間の顔だった。
スマホの灯りに照らされて、いやおうにも不気味に浮かび上がっている。
くそう、こんなポスターに驚いてしまうなんて。
さらに、
ぶびびびびびびbbb
という不気味な音!
ごきぶりか、蛾か、こうもりか。
あわててスマホを向けると、蛾が窓際でぶるぶる震えながら飛んでいた。
もう、こわすぎて声もでない。
のどがかすれてくる。
あわててつばを飲み込むが、もう階段を歩く足に、力が入らない。
どうすればいいのか・・・。
教室に入って電気をつけると、急に気持ちがでかくなる。
明かりというのは、偉大である。人間に勇気と希望を与えてくれる。
黒板にメッセージをかき、さらに忘れていたプリントをとり、もう一度意を決して電気を消す。
あとはスマホの明かりだけがたよりだ。
できるだけ足元だけを照らし、壁に貼ってあるポスターがむだに見えないように努力する。
泣きそうになりながら階段を降り、職員室をめざす。わざとではないのに、ごく自然に足が速くなってくる。
だが遠くから迫ってくる廊下の闇の漆黒は、はかない小さな四角い画面の光よりもはるかに巨大な威圧感をもってわたしを取り巻こうとする。
あと少し、と思ったとき。
わたしは階段を踏み外した。
イッテーッ・・・痛ー・・・
早く帰ろう。
夜の学校は怖すぎる。
