「ポコペン」をご存じでしょうか。
缶蹴りの亜種です。
ポコペンは、缶を使いません。でも、缶蹴りのような、ごく近いルールの遊びです。

わたしは友達との関係性をこれでかなり磨いたので、思い入れがあります。
一番は、仲間と通じる心地よさ、敵を欺く心地よさ、でしょうか。
そして、仲間を救うためにあえて犠牲になることの面白さを知りました。
Sくん、きみをぜったいに救うから頼む、今この瞬間だけは芝居を打ってくれ、と頼むような祈るような気持ちを味わいました。
同時に思い出すのは、

「ああ、敵に知られずに壁の向こう側に隠れているあいつと連絡をとりたい」という気持ち。

これは、当時は怪人二十面相の「少年探偵団」が持っていたトランシーバーがあれば実現できましたから、おもちゃ屋さんで「トランシーバーもどき」が売っていたときは、あこがれました。
(もどきでしたから、20m離れたらもう使えない)

さて、うちの教室の話です。
クラスの子どもたちが、外でおにごっこをするのですが、やる子とやらない子に分かれていました。
やらない子は、サッカーもやらないし、散歩もしない。
教室でストレス発散できずにいる感じ。

そこで、なにげなしに「おにごっこやってきたら?仲間に入れてもらえば?」と、ちょっと様子見でなげかけてみると、想像していた反応どおりで、案の定、
「だって足が遅いからねらわれておもしろくない」
とのこと。

みんなが教室に戻ってきてから、

「おにごっこのルールをちょっとだけ変えてみるとかどう?」

と言うと、前のクラスではそれで話し合いがはじまったものでしたが、なんかうまく進まない。

そこで、わたしがルールを変える提案をいくつかしてみたものの、なんだかそれでは面白くなさそうというか、「大人がつまんないことを言い出してる」雰囲気も出てきたので早々にヤメ。

「あ、じゃあおにごっこ以外はどう?」

というと、それもアイデアがないようで、なにするの?という雰囲気。
お前たち、本当に小学生かよ、というのが現代なのであります。

そこで、時代はSDGsですし(←意味不明)、いろいろと伝統的な遊びを教えました。

「ポコペンでしょ、Sケンでしょ、メロンに『くつとり』メロン、回転焼き、6ムシ、ほかにも・・・」

まったく知らない。
昭和の遊びは、絶滅しております。

というか、わたしは名古屋で育ったために、遊びが偏っている。東京ではないために、全国区ではない。ですから、正直、恥ずかしくてなりません。こんなローカルな遊びに魂をうばわれて、毎日飽きもせずに繰り返して遊んでいたなんて・・・
ちなみに、すべて上記のあそびはすべてローカルルールで完成されております。

ポコペンを知ってる?というと、子どもがそれをやってみんなで遊ぼう、という。
だから、一度、みんなでポコペンをやりました。

♪ぽこぺん、ぽこぺん、いま、だーれがつーついた、ぽーこぺん!

感涙というのでしょうか、40数年前にわたしが実際に歌った唄が、くちをついて、自分の口から出てきたとき、この令和の空気の中にそれが蘇り、かじかの里にそれが響いたとき、わたしは思わず絶句して、嗚咽しそうになりましたぜ。

子どもたちもすぐに覚えて、それをいっしょに唄ってくれました。
そして、わたしが鬼をやると、大いに盛り上がったのです。

わたしが校庭の隅を全速で駆けながら、「〇〇くんポコペン!」と柱を叩くと、わたしはいつしか、40数年の時をさかのぼり、小学生にもどっておりました。

大いに楽しんだあと、靴をはきかえている靴箱の場所で、子どもが「先生、めっちゃおもしろい遊びをおしえてくれて、ありがとう!」というのをきき、また私は感涙しました。

まだあるんですけど

この話を同僚の先生にすると、まさかの回答。
「わたし、ぽこぺん知ってますよ」

その先生は、山梨の学校で知ったそうです。
また別の先生は長野市の小学校で、やはりポコペンといい、今なおまだ現役の遊びであることを教えてくれました。

調子に乗って職員室中の先生に訪ねて回ると、やはり中部地方全般にあった遊びのようで、富山にも似たような遊びがあったとのこと。富山ではポコペンではなく、ぺこぽこ、だったとも。
また、愛媛県出身の先生が、やはりポコペンだったような気がするとのこと。

東京でもあったようですが、どうやら中部地方出身者が東京で伝えたものらしいです。
「東京でもやった」と言ってた先生は、子どものときに引っ越しで東京の別の地域に行った際、みんな知ってるだろうと思ってポコペンを誘ったところ、「そんなもん知らん」と言われて断念した思い出も語ってくれました。つまり、中部出身者が少数ながらそれを伝承者となって一部の地域に少しだけ流布させたものらしいですな。
また、東京では遊びの名前が「ペコ・ポコ」であり、不二家のキャラクターのことを指していたものらしく、唄も、「ぺこちゃん、ぽこちゃん、最後につついたの、だあれ」だったようです。

わたしは当時、不二家のキャラクターなんぞまったく念頭になかったので、少なくとも名古屋界隈では、「ポコペン」というフレーズで一大勢力を築いていたようです。

老いた母にこの件を聞いてみようと思い、ひさしぶりに電話すると、
「ぽこぺん?知ってるよ。缶蹴りみたいなのでしょう」
と、ちっともボケ知らずの回答。
そこで初めて分かったのは、どうやら太平洋戦争の時にはもうすでにあったらしく、母が子どもの時代にもすでにあったらしい。
「わたしらもようやりよったよ」
「あ、そう。ちゃんと歌もあった?」
「ああ、なんだっけかな、ぽーこぺん、ぽーこぺん、だれつついた、だれつっついた・・・」

どうやら太平洋戦争末期ごろ、戦後すぐの食べ物がなかった時代は、唄もちょいとちがったようです。節回しもなんだか冗長で、やはり時代のテンポというのがあるのでしょうか。ゆっくりです。

で、肝心なことを母に聞きました。貴重なポコペンの生きる伝承者、という位置づけで。

「お母さん、なんでポコペンというんか、知ってる?」
「缶がペコッとへこんだんちがう?」

ずこーッ!

「なんで缶が関係するわけ。缶使わないでしょう。ぽこぺんと缶は関係ないじゃないの」

とわたしが言うと、齢80になる貴重な資料はこう言いました。

「使うよ。ポコペンは缶をふんづけてたもの」

どっひゃー

見つけたら鬼は缶を踏んで「ぽこぺん!」って言うんですって。
あと、最初はかごめかごめみたいに、手で目を覆った鬼のまわりを手をつないでみんなで謡いながら回ったんですって。それで背中もつついたんですって。それ本当?記憶が混じってない?

この話は、これでおしまいです。

⇩写真は、もぐたん。

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