母は日本人で父がネパール人、という子がクラスにいる。
わたしはその父親に一度だけお目にかかった。
すごく瞳がきれいで、物腰のていねいな方であった。

生まれて3歳までの時期をネパールで暮らした子で、うっすらとそのころの記憶があるという。
今は日本に来ていて、国籍も日本人として生活している。
母親は、なんと普通の公立学校の教員である。市内の別の小学校に勤務している。

その子は、SDGsに関心が深く、目標の10番目にある、
『人や国の不平等をなくそう』を研究テーマに選んだ。
SDGs10


そして、それを自分の研究に設定した理由をクラスのみんなの前できちんと発表した。

「いま、アジア人や黄色人種が差別を受けています。これをなくしたい」

彼女はどちらかというと、クラス内ではひょうきんものだ。休み時間に爆笑をとるような面白いキャラなのだが、これを言ったときの彼女の顔つきは本当にまじめで、真剣だった。

東京新聞が、
アジア人差別がアメリカで顕著になってきているが、日本人も例外でなく、被害を訴える日本人が増えているという記事をあげていた。

『コロナ被害が拡大し始めた昨年3月下旬から今年2月末までのアジア系への憎悪犯罪は3795件。加害者は、相手の顔つき、体形だけをみて卑劣な犯行に及んでいるとみられる』(東京新聞)

差別は、不安から始まる。
マウントを取らねば、と焦るのは、自尊心の欠如が原因だ。
自分に満足しているメンタル、自分を肯定するメンタルの持ち主は、相手を肯定する。
それがふつうだ。同じこころの動きだから当然。
自分を否定する者だけが、相手を否定する。

ところで、昔懐かしいイソップ童話。
今はもうすっかり忘れ去られてしまい、子どもも知らない子の方が多い。
イソップは奴隷(といってもギリシャの奴隷は奴隷のイメージとはちょっとちがうらしいが)だったせいか、人間観察をつづけ、この寓話の作者になった。
イソップは、うまく心理学を表現している。
「すっぱいぶどう」や「北風と太陽」など、人間の意識の動きをよくとらえている。
わたしは、このイソップ童話から、差別の元のメンタルを考える授業ができないかな、とよく考えることがある。

人は、強制されると反発したくなる。
つまり、人には自分のことは自分で決めたいという欲求があるようなのだ。

「これあげよう」というと「別に要らない」と言いたくなるが、
「あなたにはあげない」となると、それが無性に手に入れたくなる。
こんな程度のことですら、すぐに心がそう動いてしまうのが人間だ。
いつでも、こころの自由を担保しておきたい。
これは、人間のかなり原始的な欲求だろうと思います。
このような心の働きを「心理的リアクタンス」といいます。

イソップ物語の北風が、旅人のコートを脱がすことが出来なかったのがまさにこれです。
無理やりに脱がそうとすればするほど、そうはさせるものか、と反発しようとするのです。
心理的リアクタンスは日常のあらゆる場面で発生します。
isop


差別のこころを解明し、全人類が、自分の心の動きや状態を、じっくり考えるためにはどうしたらいいのか・・・。

『この目標は、国内および国家間の所得の不平等だけでなく、性別、年齢、障害、人種、階級、民族、宗教、機会に基づく不平等の是正も求めています。』

彼女の長い闘いが、今、はじまろうとしている。