ビリー・ジョエルをご存じだろうか。
甘い歌声、渋いマスク、印象的なサウンド。
日本のCMにも、たくさん彼の楽曲が使われた。
彼に関して、一番有名な出来事は、世界初のCDとして作られたのが彼のアルバムだったということかも。(ニューヨーク52番街)

そのビリー・ジョエルの人気曲で、「ハートにファイア(We Didn't Start The Fire)」というのがある。ご存じの方も多いでしょう。

この歌の面白い?ところは、歌詞の意味がないようにも思えるところ。
「ハートにファイア」の詩はアメリカ史が淡々と紹介されるだけです。

♪ Harry Truman, Doris Day, Red China, Johnnie Ray
South Pacific, Walter Winchell, Joe DiMaggio・・・

曲の出だしは1949年に活躍したり話題になったりした人の名前がずらっと続きます。
(ちなみに1949年はビリーが生まれた年)

しばらくこんな歴史上の人物や事件を示す単語がずらーっと続いた後、
「We Didn't Start The Fire(火をつけたのは僕たちじゃない)」とサビが続くのですが・・・

聴き続けていると・・・次第に、
なんとまあ、人間は飽きもせずにあれこれと事件を起こすのだろう、という気分になってくる。

♪ Joe McCarthy, Richard Nixon, Studebaker, Television
North Korea, South Korea, Marilyn Monroe・・・

この歌はなんと5番まであるのだけれど、とくに曲の後半部分はサビではなくAメロがどんどん盛り上がっていく流れになっています。そしてAメロの最後にビリー・ジョエルが、こう叫ぶのであります。

 I can't take it anymore
 もうこれ以上はゴメンだ!

そう、ここは “We” ではなく“I”ですから、
限りなく彼個人の心情を、自分の言葉で言った、という感じでしょうか。

なぜこんなことを思い出しているかというと、
先日、ふと学校の階段の手すりを消毒しながら、思いもかけず、この楽曲が頭の中に浮かんできたからであります。

(以下、ハートにファイアのメロディで)
♪ 窓、床、ノブ、子どもの机、フック、椅子、ロッカー棚、音楽室の椅子、図書室のテーブル、階段の手すり、理科で使う虫眼鏡、ブランコのくさり、体育のボール、跳び箱、鉄棒、一輪車、図書館の本・・・♪

子どもの手の触れる場所を消毒せよ、という指示ですから、先生たちは子どもたちが下校した後に消毒作業をするわけで、その場所を列挙すると、この曲の気分が合ってくるわけ。

それにしても、ウイルス感染対策をとるようになってから、学校の仕事はずいぶんと様変わりをした。

一番大きく変わったのは、授業の進め方だろう。
これまでは学習指導要領の改革にともなって、子どもたちが対話をして学ぶスタイルをすすめてきた。
ところが、それがマスクで声が響かないし、お互いにしゃべって確認することができないから、昔の一斉指導に逆戻りしてしまった。

子どもたちの遊び方も変わった。

タッチしない鬼ごっこや、ボールを投げたフリ、当たったフリをするエアドッジボールをやっている小学校もあるらしい。

朝の会で歌うと、なんとなく子どもたちの心が落ち着いていくものだ。
しかし、いまだに歌は禁止。

マスクを着けて歌ったらどうか、という意見も職員会議では出されたが、腹式呼吸でも肺式呼吸でも、大きな声を出すということになれば、子どもの呼吸の量ははかりしれない。熱中症を心配する声も同時にあがったので、そのままうやむやになっている。

おそらく、もうしばらくすると、教員の過労が問題視されるシーズンがやってくるだろう。
あるいは、教員の側にしわよせがくるか、子どもの側にしわよせがくるか・・・。
わたしとしては、教員側だけで収まってほしいと願うしかない。

ビリージョエル