教員がよく遭遇する子どもどうしのトラブルで、こんなのがある。

Aくんが筆箱を投げた。
Aくんが先生に注意された。
A「だって、Bくんだって投げたんだよ」
先生「それは言い訳にはならないよ。ともかく、教室でものを投げたら危険だし、ダメでしょう」
A「なんで先生は、おれだけを注意するの?差別だ!」

わたしは、Aくんに対してというよりも、学級のなかで指導をします。
なぜなら、Aくんのような思考ルートをたどる子は、とても多いからです。
かんじんの、

自分が今、筆箱を投げたこと

からは、自分自身の注意をそらしているわけ。
頭の中で、「筆箱を投げたことに関する評価」をできるだけ封印、考えないようにしている様子。
これは、子どもの自然な、心理的・防御反応だと思います。

叱られる、ということについて、強烈な恐怖や不安を感じる子ほど、こういった防御反応が強いように思います。おそらく二次障害的なものかな?
暴言による圧力、圧迫、脅迫によって「叱られてきた」子にとっては、つらいのです。
そういう「叱り方」をされた体験をもっている子は、つらい。
おそらく、その体験から自身が解放されるまで、時間がかかると思う。

なんで、ぼくばかり注意されるの!
みんな、ぼくのことが嫌いなんだ!
俺に向かって注意するのは、みんな悪いやつらだ!


これが、「憎しみ」というもの。
世の中に対する、あるいは人に対する、憎しみ、というものでしょう。

『憎しみ』を心に抱えた子は、自分への批判や評価を、受け入れません。
受け入れるだけの余裕は、もうすでに心のどこにも、ないのです。肝心のスペースが。
憎しみは、外へ向かいます。
攻撃されたら、攻撃しかえすのが、せめてもの条件反射なのです。

つまり、憎しみによって、こころをほとんど占められてしまった子にとって、
自分が相手を批判するのはOKですが、
でも、相手が自分を批判するのは、許せないのです。

なぜなら、相手が自分のことを言うのは、すべて「攻撃」だから・・・。

しかし、自分が相手について批判するのは、これはもう、さんざん自分が攻撃されたことに対する、ほんのささやかな復讐であり、抵抗。だから、許されるべきだ、と考える。たとえ相手が、実際には自分の不都合とは、一切かかわりのない相手であっても・・・。これが「ヘイト」です。

ターゲットにされた方は、たまったものじゃないですが、憎しみに心を奪われている子にとっては、5歳のころからの憎しみが、貯金のようにたまっている。それを12歳になってようやく吐き出せるようになって吐き出しているだけなので、自然の生理的な現象に近い。
たまたま、偶然にも、目の前にいる子が、ターゲットになってしまう。

学級の中に、その「憎しみ」が連鎖していきます。どんどん、増殖する。
今、ヘイトが世の中で流行していることと、無関係ではないでしょう。
日本の世の中には、これまでの我慢やうっぷん、抑圧からの反撃欲求が、うずまいている。
それが、【ヘイトの欲求】になって表出してきているのでしょう。

ヘイトを出している側は、今の目の前の攻撃対象のことなど、くわしくは知らなくてもよいのです。ただの言いがかりに近いようなことでも、十分に、攻撃する理由になるのですから。
理由はただひとつ、「かつて自分が受けてきた圧迫に対する、ささやかな抵抗をしなければ」という思いです。



さて、こうした子には、どう接していけばよいのでしょうか?
どのような『指導』が、有効なのでしょうか?

淡々と接することです。
ごくふつうに。
しかし、粘り強く、あきらめず。
言うべきことは言いますが、しつこいことはしません。

そして、これまでどんなふうに、多くの人たちから親切を受けてきたか、嬉しかったこと、たのしかったこと、まわりがサポートしてくれたこと、してくれたこと、やってくれたこと、配慮してくれたことを、思い出させることから始めます。
道徳のノートに、たんまり、と書かせます。
最初は、「そんな世話を受けたことなんて、ない!」と言い張ります。そうです、それが特徴。親切など、受けたことはない。そう思う子ほど、人間関係に困っているのでしょう。

実は、ここで最初から、
「周囲から、こんなことをいつもしてもらっているよ」
なんて文章に書ける子は、もうすでに最初から幸福に生きている子であり、友人思いの子です。

書けない、書けない、思い出せない、そんな親切など、生まれてこのかた、受けたことがないんだ、と言い張る子ほど、これをやる価値が出る。

しだいに、書けるようになってきます。たった一行でも。

「給食を〇〇くんがよそってくれた」

だけでも。
このことを、100回ほど繰り返すと、その子の口から、ヘイトが消えていく。
これが、ヘイトの根絶につながります。

わたしの道徳は、ほとんどが、このこと。
これだけでも、1年間、ずっとやり続ける価値がある。
そして、1年くらいずっとこのことをやり続けないと、傷なんて、そう簡単に癒えるものじゃあ、ないですよネ。

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