今の勤務校では、最初から高学年ばかり担任している。
そのせいで、どの子からも

「あらま先生は、高学年の先生」

と認知されているらしい。

よく低学年の小さな子たちから、

「あ、お兄ちゃんの先生だ」
とか
「お姉ちゃんの担任の先生だよ」
と、言われることが多い。



先日、給食室の近くですれちがった、どうも1年生らしい男の子が、

「せんせい、てぶくろをはめてください」

と言った。

わたしは最初ちょっと、意味が分からなかった。
とっさにあたりを見回したが、わたし以外に、教師はいなかった。

男の子が差し出したものを見ると、小さな手袋だ。
男の子はもう一度、

「せんせい、このてぶくろを、はめてください」

と言った。
そして、自分のかわいらしい右手を、いっしょにわたしに向けて差し出した。

わたしは、「こんなことって、あるのかしらん」
と、3秒くらい、考えた。

とりあえず、その真剣なまなざしに負けて、てぶくろを受け取ってみると、合点がいった。

その手袋は、よくあるように、はめる口(くち)、手を入れるところが、ゴムで伸び縮みしないのだ。わたしは口をひろげてみたが、少し伸びたかと思うと、その先が、きゅっと締まっている。あとで誰かがそう加工したものか、もともとそういう製品だったのか。

もしかしたら、口がひろくて、その子の手からすぐに脱げてしまったのかもしれない。だから、糸を入れて、口を狭くしたのかも。
それでも、よく見てみると、とくにそのような加工をしたようにも見えなかったので、そういうような製品だったのかもしれない。
tebukuro
手を入れる内側は、ふわふわの起毛がしてあって、あたたかそうだ。
たぶん、手首まできちんと入れてしまえば、具合よく、おさまるのであろう。

わたしはその子の手をとり、てぶくろをかぶせようとして、努力をしてみた。
親指を入れ、残りの4本の先を入れて、手首までをなんとかその狭い口からおさめることに成功した。

すべて入れてしまうと、こっちも、と左手を出す。

左手もおさめると、笑顔になった。

そうか。1年生は、この時間に帰るのか。バスに乗るまで、校内で待っている子なのだろう。偶然通りかかったわたしをつかまえて、

「よし、もう手袋をしておこう」

と思ったらしい。


その子は手袋を顔の横で振って、にっこりして、

「せんせい、ありが、とう」

と言った。

そして、去っていった。



わたしは何をしにそこへ来たんだか、ちょっと思い出してから

「あ、そうだった。灯油を取りに来たんだった」

と、歩き始めました。

高学年ばかりやってると、こういう感覚が薄れてしまいますね。
そうだそうだ、1年生の担任のときは、手袋はめるとか、こんなことはふつうにやってたワ。