★2020年バージョンの記事を追加しました。こちらです。

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あめ玉で時間を取り過ぎたので、この単元は短くやることにした。

小さな、微細な表現から、登場人物の心情を想像する力をつけたい。

本文を一読し、この文章には、次のような表現(印象を示す言葉)が多い事に気が付いた。

〇じっと
〇ぱちりと
〇ふらりと
〇ちらっと
〇ぷいっと
〇ゆらりと
〇さあっと
〇じっと(2回目)
〇そっと

これだ、これだ。
この微細な、ちっぽけな言葉の意味するところを、さぐることにしよう。
春花が勇太をみたときの、『印象を示す言葉』。
この小さな、春花の勝手な思い込みにも等しいような、勇太のしぐさを表す表現をさぐることで、春花の勇太への思いを読み取れるかもしれない。


もう一度、この表現を分類してみると、

〇じっと⇒茶色の子馬が
〇ぱちりと⇒茶色の子馬が
〇ふらりと⇒勇太が
〇ちらっと⇒勇太が
〇ぷいっと⇒勇太が

〇ゆらりと⇒ねこのぽんすけが
〇さあっと⇒風が
〇じっと⇒勇太と陸が

この中でとくに、「勇太」のしぐさ(春花視点によるもの)に焦点を合わせる。


ふらりと
そのときだ。道の角から、ふらりと勇太が現れた。弟の陸を連れている。

これは、地の文であるけれど、ほぼ春花の視点による表現である。
ではなぜ、春花は、「勇太がふらりと現れた」と、感じとったのか。【ふらり】を無くし、「勇太が現れた」という文に直してから比較した。

「道の角から、ふらりと勇太が現れた」を、
「道の角から、勇太が現れた」にすると、勇太はまるで、春花がそこにいることを知っていて、わざわざ、そこに会いに来たようにも見える。

ふらりと、という表現があることで、春花は、勇太が自分のことを意識して来たのではない、と考えていることが分かる。
「勇太が自分を意識しているはずがない」と思うから、【ふらりと】と春花は感じるのだ。


ちらっと
勇太は顔を上げて、ちらっと春花の方を見た。でも、すぐに目をそらした。

これも、地の文である。しかし、内容はほぼ、春花からの視点で書かれている。「ちらっと見たな」と受け取ったのは、春花である。
この、『ちらっと』を、仮に無くして読んでみると・・・

勇太は顔を上げて、春花の方を見た。

となる。

こうなると、勇太が春花の言動を気にして見ていたような雰囲気になる。ちらっとがあることで、「一瞬だけ」という感じがする。
つまり春花はまだこの時点でも、
「勇太は私のことを特に意識していない」
と考えているわけだ。


物語中、春花の勇太に対する心情が、直接どこかに書かれていることはない。だから、こういう微細な表現をのがさず見ることによって、春花の心情を推し量っていこう、というのが、初回の授業であった。


実際、この方法で取り組んでみると、比較的意見を書きやすい。
物語文に苦手意識のある子も、ノートに意見を書くことができていた。





次の時間、物語を3つの場面に分け、それぞれに春花の心情をまとめていった。

微細な表現に着目させ、
〇〇と と書いてあるけど、もしそれがなかったら、△△△・・・っていう感じに聞こえるから、わざと〇〇と、という表現で、春花の勇太に対しての気持ちをくわしく表現したのだと思う。

と、意見が言えるようにしていく。


その後、うちのクラスで出た【印象言葉】の解釈は以下の通りである。

★第二場面★
〇(勇太は)後ろから→わたしのやること(名前つけ)にはあまり興味がないんだな
〇(勇太は)じっと(2回目)見ていた→わたし(春花)のことで、心配をかけたかも。

★第三場面★
〇(勇太が)そっと→内緒でくれた。大事そうに。うれしい。
〇(勇太は)急いで→急がなくてもいいのに。話をしたかったな。

どれも、春花の心情を表すために、必要な表現である。
これらがもし仮に無かったら。
春花にとっての勇太の行動の意味は、まったくちがったものへと変わってしまう。

春花が期待するもの。そして、勇太の実際の行動。

これらの相互関係を、微細な『春花にとっての印象言葉』から、読み解いていく教材だ。

紙の馬