.
花いちもんめをはじめたところ、すぐに悲鳴が。

見ると、Aくんたちが足で蹴りあっている。

すぐにストップし、いったいどうしたのか、と問う。

「だって、敵が蹴ってきたから!」



蹴らないでやろう、と確認して再度スタート。

今度はAくん、相手のじゃんけんの仕方に文句がある、と興奮している。

さらに、おれはもともと窓側のチームだったから、と言って
校庭側のチームに引き抜かれて自分の所属が変わったにもかかわらず、
「手をつなぐのがいやだ!」
と言い出した。

そこで、花いちもんめはストップ。



花いちもんめは、敵も味方もないでしょう、というと、
Aくん、「いや、ある!」と。

「だって先生、勝ってうれしい、とか、負けてくやしい!って言うじゃん!」

みんなを集めて、話した。


勝ってうれしい、とか、
負けてくやしい、とか、
言葉で言うんだけれど、そのすぐ直後に、
自分自身がすぐに敵味方の立場が入れ替わってしまう可能性があり、
うれしいとか、くやしいとか、そんなものは
すぐにどっかへ行っちゃう、というのが
この遊びの面白い意味なんじゃないかなあ。


まあ、そうだよね、と反応する子もいるかわり、
「ちがう!」
と言い張る子もいる。

わたしが
「え、でも、すぐに誰が味方か敵なのか、わからなくなっちゃうよね。
そこが、この遊びの、面白いところなんでしょう」
というと
「そんなことない!〇〇は敵!」
とゆずらない。

企画したメンバーが「先生、もう遊びをチェンジしよう」というので、
花いちもんめはもうやめにして、すっきりと次へ。

次は、花いちもんめよりも、さらに平和なはずの
「だるまさんがころんだ」である。

これなら、「勝つ」とか「負ける」なんて言葉もないから、
勝ち負けは本当に無いよね。


ところが、だるまさんがころんだをやりはじめたところ、
Aくんが、すぐに走ってきてタッチする。

「今の、ちゃんと名前を呼んだし、完全に動いていたでしょう」
というと、
「いや、ぜったいにセーフだった!俺の勝ち!」
と言う。

いちいち先生の出る幕でもないよな、と思いつつ、
鬼の子が困惑したように訴えるので、仕方なく私が、
「今のはアウト!」と裁く。

アウト、と言われて

「ちくしょう!」と叫ぶ形相がすごい。

「絶対に俺はつかまらんぞ!」



そのうちに、タイミングを見て、
企画メンバーがこんなはずじゃなかった、と言うように
「先生、これ、早めに終わりにして、ちがうことしよう」
とないしょでこそっと、耳打ちしてきた。


教室の席にもどり、まったくちがう絵を描くゲーム。
これはまったく勝負することではない。
なにが良い、悪い、というのも、無い。
ただ、交互に絵を描くだけ。

「おもしろい絵だねえ」

これは、平和裡に済んだ。




お楽しみ会が終わって、ちょこっと企画メンバーの反省会をすると、

「花いちもんめも、だるまさんがころんだも、男子とはもうやりたくない」

と女の子が言う。

「あんなに、勝負にこだわってやるもんじゃないから」



たしかに。
おっしゃる通りです。
しかし、男の子たちは、勝負だと思って、まさに武士の一分、自分の魂をかけて勝負をかけてきている。たとえ花いちもんめであっても、だるまさんがころんだ、であっても、
決して負けるわけに、いかない。それが男。

これを、男と女は違う、というひと言で済ませるのか、
どうなのか。


帰りの会が終わってから、なんとなく集まってきた企画メンバーと、
「だるまさんがころんだ」は、いったい勝負なのかどうなのか、という話になった。
みんな、口々に、
「あれは別に、勝ち負けは無いでしょう」
「あれの面白さは、ぴたっと止まるところなんじゃないの」
「そうそう、つい動いちゃうから、あ~、ざんねん!ってなる」
「みんなでじっと固まっているのが、面白いよね」
「急に振り向いたり、わざとゆっくり言ったりするでしょう。あれが笑っちゃうから」
「なかにはさ、変な恰好で、なんとかぎりぎり止まっている人いるじゃん。あれがいいよね」
「あんなのさ、いくら負けたって平気じゃん。どうせすぐに鬼も変わるんだし」

わたしはつぶやいた。

「きみたち、ぜんぜん、分かっとらんな。あれは、男と男の壮絶な勝負なんやで」

女子はあきれ顔である。
なんでそんなにこだわるかなあという顔をしている。

いや、Aくんにとっては、あれが、一世一代の大勝負なんや。
息を殺し、忍び寄る!
敵に気付かれないように、徹底的にカムフラージュする。
まさに、騙し、騙される、生きるか死ぬかの壮絶な駆け引きだ。
「だるまさんがころんだ」と言って、相手が視界をずらし、死角が生まれたその瞬間!
まさに獲物をねらうピューマのように、密林の王者ジャガーのように、
敵の油断をすかさずつき、背後から強烈なタッチで、
ズドン、と敵を討ち、すかさず逃げる!
命からがら、われ、奇襲に成功セリ!というわけだ。
彼の心には、「トラ、トラ、トラ」の暗号音が鳴り響いている・・・、ちゅうわけやなぁ。

Aくんにとっては、たとえ平和そうに見える「だるまさんがころんだ」も、そのへんの女(おんな)子どもの遊びとは、わけがちゃうんやで!


わたしが、そう喝破した結果、二度と、

・花いちもんめ
・だるまさんがころんだ

は、このクラスでは開催されないことになりました。





女子があきれたように、

「先生、ほんっっっとーに、・・・勝ち負けのないゲームってないの?」

と問うたので、わたしは遠くを見つめながら、

「ないのやろうなあ・・・。男はいつだって、勝負の世界だもの・・・」




男はいつだって、酔いしれたいのだ。
自分の強さに、おのれのたくましさに。

そして、それを認めてもらいたい。
ほめてもらいたい。
もっというと、感謝してもらいたいのだ。

Aくんは、みんなから感謝されることを期待していると思う。
それに、実際に、いろいろとやってくれている。
Aくんに感謝することを、クラスのみんなから集めたら、きっと膨大な数の事例が集まることだろう。

pose_sugoi_okoru_man