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卒業式の日。
わたしは6年生、卒業生の担任として、子どもたちと共に、体育館前の通路に並んだ。
入場の曲が流れ始め、係りの先生から、合図があった。
「卒業生が入場します!」
マイクの進行とともに、先頭の列が動き始める。
わたしも、ゆっくりと歩き出した。
少し振り返ると、先頭の子2人が神妙な顔つきで、背後からついてくるのが見えた。
体育館の中に入ると、拍手の渦に巻き込まれた感じ。
小さな1年生の子たちまでが、懸命に拍手してくれているのが分かる。
その中を、ゆっくりと進む。
卒業式が始まった。
しばらくは座った子どもたちの後ろ姿ばかり見ている。
(まだ涙腺は大丈夫だ)。
いよいよ証書授与。
壇上にあがる、一人ひとり、卒業生の名前を読み上げた。
緊張したけど、制服姿の子どもたちの堂々とした姿に、どちらかというと
「かっこいいなあ・・・昨日までの印象とまるで違うわ」
みたいなことを考えているから、・・・まだ涙腺は大丈夫。
子どもたちの顔を見る瞬間がありました。
体育館のステージ、舞台にあがって、全員に顔を見せながら歌ったときです。
一人ひとりの顔が、こちらを向いている。
口が動いている、歌っている。
あの顔も、この顔も。
湧いてくる感情は、ありがとう、と言うこと。
自分はこの子たちと共に過ごせたことがなんという幸運だったろう、と思う。
教師はやはり、最高の仕事だ。
教室に戻ってきて、別れまでの時間は30分あった。
この30分で、何を話そうか。
一人ひとりについて語りたい。
実はこの日の、このタイミングのために、1年半前に書いていた作文を使った。
子どもたちが、おうちの人にどんな感謝をしているか、書いたものだ。
「Aさん。覚えていますか。Aさんが、おうちの人についてこんなふうに書いていたことがあります。」
「Bさん、Bさんはこんなことがあって、その時、・・・と思ったって書いてくれてます。」
一人ひとりに向かって、クラス全員分を読み上げた。
子どもは、親の姿をこんなふうに見ているのだ、と
この作文を読んだ時に、じわぁーっと感じるものがあった。
ただし、これを、発表する機会がなかった。
作文用紙を子どもに返すだけでは、もったいないと思い、ずっとしまってあった。
最後の最後に、発表できた。
〇お母さんは帰ってくると、椅子に座る。本当に疲れているように見える。わたしにできることと思って、お風呂のお湯を入れている。お母さんは、夏休みになると、わたしといっしょにすごす時間をたくさんつくろうとしてくれた。
〇お母さんは何でもしてくれる。いつも朝早くに起きてご飯をつくってくれる。サッカーの試合があると、会場まで送ってくれる。遠征するときはお金がかかるけど、一度も今回はやめようと言わないで、出たらいいよ、と言ってくれる。
〇夏休みにすごく熱が出たことがあった。夜中に苦しくて何度も目が覚めたけど、お母さんは寝ないで起きていて、様子を見てくれていることが分かった。
〇一度発作があって倒れた時、病院で点滴をうった。その間、お母さんはずっと手をにぎってくれていた。
〇洗濯物を干す手伝いをしたけど、洗濯ものをあげたりおろしたりするだけでもすごい腕が疲れた。お母さんはいつもこれをやってくれているんだと思った。
〇お母さんは仕事から帰ってきても仕事があって、それは家じゅうの部屋を掃除してくれていることだ。自分は妹の保育園の送り迎えをたまあにやることがあるけど、それくらいしかしていない。
〇水泳で平泳ぎが25m初めて泳げた日に、そのことを言うと、家族がみんな喜んでくれた。お父さんやお母さんだけでなくて、お兄さんまでがそのことを喜んでくれた。海に行ったときに背泳ぎに挑戦していたら、家族が全員でがんばれ、と応援してくれた。
〇ブラスバンドのコンクールで演奏したあと、お母さんがいろんな感想を言ってほめてくれた。その感想も、いいことも言ってもらったし、もっとこうするといいよ、ということも言ってくれた。そんなふうに教えてくれたのが嬉しかった。
〇私は弟と喧嘩するときがある。家族がみんなで、なんとかしてとりなしてくれようとする。わたしはそこが分かるから、余計に意地悪なことを言う時だってある。でも、心の中ではいつも、うまくとりなしてくれることがありがたいと思っている。
〇好きな野球をとことんやらせてもらっているから、お母さんに感謝したいと思うけど、買い物のときに重いかごを持ってあげることくらいしか思い浮かばないので、それをやっている。
〇サッカーで靴下がすごく汚れているけど、いつの間にかきれいにしてくれている。言わないけど感謝している。
〇私は車酔いをするので、車に乗って遠出をする時などは、よくお父さんが心配してジュースを買ってくれたり、いろいろと気を配ってくれるのがうれしい。
卒業式で、一番伝えたいのは、こんなにもお母さん、お父さんが大好きな子たちだった、ということ。
そして、その両親に、感謝しているけど、なかなか伝えられていないということ。
教師は、その間にあって・・・
卒業する子どもたち。
その子どもたちを支えてくれていたご両親、ご家族の方たち。
教師は最後に、その両者にメッセージをおくる立場だろうと思う。
卒業式の日。
わたしは6年生、卒業生の担任として、子どもたちと共に、体育館前の通路に並んだ。
入場の曲が流れ始め、係りの先生から、合図があった。
「卒業生が入場します!」
マイクの進行とともに、先頭の列が動き始める。
わたしも、ゆっくりと歩き出した。
少し振り返ると、先頭の子2人が神妙な顔つきで、背後からついてくるのが見えた。
体育館の中に入ると、拍手の渦に巻き込まれた感じ。
小さな1年生の子たちまでが、懸命に拍手してくれているのが分かる。
その中を、ゆっくりと進む。
卒業式が始まった。
しばらくは座った子どもたちの後ろ姿ばかり見ている。
(まだ涙腺は大丈夫だ)。
いよいよ証書授与。
壇上にあがる、一人ひとり、卒業生の名前を読み上げた。
緊張したけど、制服姿の子どもたちの堂々とした姿に、どちらかというと
「かっこいいなあ・・・昨日までの印象とまるで違うわ」
みたいなことを考えているから、・・・まだ涙腺は大丈夫。
子どもたちの顔を見る瞬間がありました。
体育館のステージ、舞台にあがって、全員に顔を見せながら歌ったときです。
はじめてとびばこがとべた日のこと
雪の日 まっ白にそまった校庭
ささいなことでけんかして
体育館のかげで泣いたこと
今 卒業のとき
胸にこみあげるものがあるけれど
まっすぐ顔をあげて
さよならの向こうには何かがきっと待っている
一人ひとりの顔が、こちらを向いている。
口が動いている、歌っている。
あの顔も、この顔も。
湧いてくる感情は、ありがとう、と言うこと。
自分はこの子たちと共に過ごせたことがなんという幸運だったろう、と思う。
教師はやはり、最高の仕事だ。
教室に戻ってきて、別れまでの時間は30分あった。
この30分で、何を話そうか。
一人ひとりについて語りたい。
実はこの日の、このタイミングのために、1年半前に書いていた作文を使った。
子どもたちが、おうちの人にどんな感謝をしているか、書いたものだ。
「Aさん。覚えていますか。Aさんが、おうちの人についてこんなふうに書いていたことがあります。」
「Bさん、Bさんはこんなことがあって、その時、・・・と思ったって書いてくれてます。」
一人ひとりに向かって、クラス全員分を読み上げた。
子どもは、親の姿をこんなふうに見ているのだ、と
この作文を読んだ時に、じわぁーっと感じるものがあった。
ただし、これを、発表する機会がなかった。
作文用紙を子どもに返すだけでは、もったいないと思い、ずっとしまってあった。
最後の最後に、発表できた。
〇お母さんは帰ってくると、椅子に座る。本当に疲れているように見える。わたしにできることと思って、お風呂のお湯を入れている。お母さんは、夏休みになると、わたしといっしょにすごす時間をたくさんつくろうとしてくれた。
〇お母さんは何でもしてくれる。いつも朝早くに起きてご飯をつくってくれる。サッカーの試合があると、会場まで送ってくれる。遠征するときはお金がかかるけど、一度も今回はやめようと言わないで、出たらいいよ、と言ってくれる。
〇夏休みにすごく熱が出たことがあった。夜中に苦しくて何度も目が覚めたけど、お母さんは寝ないで起きていて、様子を見てくれていることが分かった。
〇一度発作があって倒れた時、病院で点滴をうった。その間、お母さんはずっと手をにぎってくれていた。
〇洗濯物を干す手伝いをしたけど、洗濯ものをあげたりおろしたりするだけでもすごい腕が疲れた。お母さんはいつもこれをやってくれているんだと思った。
〇お母さんは仕事から帰ってきても仕事があって、それは家じゅうの部屋を掃除してくれていることだ。自分は妹の保育園の送り迎えをたまあにやることがあるけど、それくらいしかしていない。
〇水泳で平泳ぎが25m初めて泳げた日に、そのことを言うと、家族がみんな喜んでくれた。お父さんやお母さんだけでなくて、お兄さんまでがそのことを喜んでくれた。海に行ったときに背泳ぎに挑戦していたら、家族が全員でがんばれ、と応援してくれた。
〇ブラスバンドのコンクールで演奏したあと、お母さんがいろんな感想を言ってほめてくれた。その感想も、いいことも言ってもらったし、もっとこうするといいよ、ということも言ってくれた。そんなふうに教えてくれたのが嬉しかった。
〇私は弟と喧嘩するときがある。家族がみんなで、なんとかしてとりなしてくれようとする。わたしはそこが分かるから、余計に意地悪なことを言う時だってある。でも、心の中ではいつも、うまくとりなしてくれることがありがたいと思っている。
〇好きな野球をとことんやらせてもらっているから、お母さんに感謝したいと思うけど、買い物のときに重いかごを持ってあげることくらいしか思い浮かばないので、それをやっている。
〇サッカーで靴下がすごく汚れているけど、いつの間にかきれいにしてくれている。言わないけど感謝している。
〇私は車酔いをするので、車に乗って遠出をする時などは、よくお父さんが心配してジュースを買ってくれたり、いろいろと気を配ってくれるのがうれしい。
卒業式で、一番伝えたいのは、こんなにもお母さん、お父さんが大好きな子たちだった、ということ。
そして、その両親に、感謝しているけど、なかなか伝えられていないということ。
教師は、その間にあって・・・
卒業する子どもたち。
その子どもたちを支えてくれていたご両親、ご家族の方たち。
教師は最後に、その両者にメッセージをおくる立場だろうと思う。