校長先生が悩んでいました。
いつもわりと晴れ晴れしている顔なので、ちょっと困りました。
職員室の気分もなんとなく、曇ってきます。

勇気を出して、教頭先生がおたずねしてみると、なんと

「加配の先生が来てくださるのでわれわれはずいぶん助かっているが、その加配教員の効果を数値で示せ、と校長会で指示がありまして」

とのこと。
校長先生が悩んでいる原因が分かりました。
つまり、学校に、先生を増やしているので、その増やした分の給料が税金負担である、ということが問題視されているのです。
その税金が適正に使われたものなのか、調査する必要がある、ということでしょう。
だれが言い出したのか知りませんが、ずいぶんなめたことを、と思います。

「加配の先生が来てくれて、教室から飛び出す1年生が、廊下でつかまえられるようになってずいぶんと助かっている・・・てなことを書いておけばいいのでは」

と職員室のどなたか、わりと年配の先生がおっしゃったのですが、どうやらそんな程度ではダメなようです。

「いやあ、数値で出せ、ということなのですよ。鉄棒の逆上がりが、クラス全員できるようになったとか・・・ね」

校長先生はそういうと、ため息をついてひじを机の上に衝かれました。

「数値でって、言われても、ねぇ・・・」



どなたか、また別の先生が、

「教室から飛び出す1年生を、週に何べんつかまえたか、数値で出せばいいのでは」

ということを言いました。
わたしも、それはいい、と思って校長の顔をみたのですが、校長はだまって首をふって、また深いため息をつかれました。
どうやら、そんなのはダメなようです。


保健室の先生が、

「1年生を廊下でつかまえた場合は、多くの場合、怪我をしないで教室に帰れるので、そのことを数値化したらどうでしょう。中庭の池と水路に1年生が飛び出して、この間のように石でつまづいて怪我をすることが何度もあったでしょう。加配の先生が、そこまでいくうちにつかまえてくれるようになったので、怪我も減ったと思うのですが」

というと、職員室全体に、それはいい!という空気がひろがって、安堵したようになりました。

ところが、ふと気付くと、校長はますます深く肘をついて、両頬を手でつつみこむようにして、苦しい顔を変えていません。

「どうですか。養護の先生の案では」

「だめですね」

校長は、全然ダメだ、というような調子で首を振っていました。


「ともかく、算数が全員、95点以上になったとか、漢字テストが95点平均でいけるようになったとか、逆上がりが全員できるとか、水泳で全員平泳ぎで25m泳げるとか、そういったことがほしいんだ」



それを聞くと、職員室が全体、シーン。


ずっと下を向いて、運動会で保育園児が使う風車をパチン、パチン、とホッチキスで止めていた年配の1年生の先生が、ふと顔をあげて、

「じゃ、前回やったテスト、もう一度やりましょうか。加配の先生のおかげで、もうみんな、やり方を覚えましたから、同じのをもう一回やったら、みんなほぼ100点とれますよ」

それを聞くと、再度、職員室がパァァッーーーと明るくなりました。

校長先生も、なんとか顔をあげて、笑顔を見せてくださいました。




少人数のことでいえば、教室に38人。
これ、もうどう考えても今の子どもたちの実情には合っていません。

今や、けんかを自分の力で収束できなくなった子どもたちが、ほぼ99%です。

こういう時代に、38人が一同に教室に詰め込まれた状態で、授業がまともに進むわけがありません。
行事がすべて消滅して、生徒指導の時間を毎日1時間とれるのなら別ですが、現実にはそうはなりません。
ほぼどのクラス、どの教室でも、人間関係の処理に忙殺されて、(忙殺されていないようであれば、学級崩壊していて、先生がすでにあきらめきっているクラスかも?)38人をまともに学習に向かわせるのはかなり難しいです。

これを、「やれる」なーんて、中途半端に申し上げてしまうから、ややこしくなっています。
「あきらめてください。38人なんて、無理!!!!」
って、えらい校長会のトップか、文科省のトップが、ちゃんと世の中に対して、言ってくれていないから、中途半端にまだ、期待されてしまっています。

文科省長官の、

「えー、あきらめてください」

が、なぜ言えないのか。
いじめがあり、自殺があり、不登校があり、どう見てもまともではない学校ばかりです。
もう、メンツとかにこだわるの、やめましょうよ・・・。
そんなの、最初からムリですよと断ればいいものを、なんとなく引き受けてしまうのがいけない・・・。


少人数加配を増やせない理由を、校長が教育委員会や市の議会などにねじこんで、

「加配しないこと分の税金を有効に子育て支援に使っているという効果を数値で示せ」

と要求するのが本当です。

世の中、逆ですよ、逆。