「代理ミュンヒハウゼン症候群」がテレビなどで話題になって、もうずいぶん経つ。
ほらふき男爵の実名が付されたこの病気を、以前聞いてから、なんとはなしに気になっていた。

「病児の母親を演じること」・・・これが目的化している親がいる。
にわかには信じがたい症例だが、れっきとした病気である。

福岡「殺人教師」事件の真相 でっちあげ 福田ますみ・著
この本を以前読んだ時も、あまりにおかしな事件の顛末を聞いて、本当に驚いたことを思い出す。
常識を飛び越えてしまったこの事件に、福岡市も教育委員会も校長も教頭も、まわりの親やPTAさえもまきこまれてしまった。本当に背筋の凍る思いがする。



こわいのは、「演じる」、ということ。

そして、その仮面を正当化するために、どんどんと虚偽を重ね、塗り重ねて行く。

こういうことに、まとも(だった)校長が、まきこまれてしまう。

事件の後、あまりに常識を外れたこの事件について、どの立場の人も、安易に巻き込まれてしまった自分自身を

「勉強不足」

と責めているにちがいない。



さて、代理ミュンヒハウゼン症候群から少し話がずれてしまった。

なぜ急に、こんな症例の話を思い出したかと言うと、実はご近所さん宅によく来るヘルパーさんの口から、この名前を聞いたからだ。
ヘルパーさんは庭によく出られる。お手伝いに来られたのだ。ご近所さん宅のおばあちゃんが、身体の調子が良いと、いっしょに庭先に出てこられて、少しだけ、土いじりもされる。
その時に、ちょこっと話をすることがある。
ヘルパーさん自身もご近所の方なので、お互いに顔見知りなのだ。

さて、そのヘルパーさんが言うのには、うそばかりを言うおばあちゃんがいるので、
「ほとんど嘘だから、気にしないで、そうかそうか、と聞いてあげてください」
と仲間やご家族の方と話をされて、一致して支援体制を組んでいる、とのことである。

おばあちゃんなので、少々呆けがあってのことなのですか、と聞くと、そうではない、という。
そもそも、若いころから、虚言があったのだが、それがこの齢になって顕著になってきた、というのだ。
65歳くらいから虚言が日常的になり、75歳の今ではほとんどが虚言。
この間はお嫁さんとヘルパーさんが連携してお世話をしていて、今日はこんなことを言っていたが、とお互いに確認しているらしい。
嘘を言っていても、そうですか、と聞く。
すると、ご機嫌がよろしいそうである。

おばあちゃんが、よく、「飼い猫が病気でたいへんだから、動物病院へ連れて行ってくれ」と何度も頼む。
でも、実際の猫ちゃんはとても元気で、まるきり病気でもなんでもなく、元気に何年もの間、病院知らずで過ごしている。
この話のときに、

「代理ミュンヒハウゼン症候群」

という言葉が、ヘルパーさんから出てきたのだ。
そのおばあちゃんがそうだ、というのではない。
ただ、そういう症候群もあるんだってね、というくらい。

でも、そんな言葉がヘルパーさんの口から聞けたので、

「おお、なんとなつかしい。そう言えば」

と思ったのだ。


保護者や児童にも、もしかしたら、ということがある。
福岡の「殺人教師」事件のときは、そうであった。
冤罪というやりきれない重い物を背負ってしまった教師。
そして、教育委員会や校長。

いつも、「嘘」という言葉を聞くたびに、この事件を思い出す。

すでに風化しそうになっているこの事件については、新潮社のWEBサイトにくわしい。
『でっちあげ』事件その後、として、1~4まで、著者の福田ますみさんが報告をしてくれている。