ついに、会えなかった。
生前のお姿を、どこかで(トークショーやなにかで)みることができるのではないか、と淡い期待を抱いていた。

この目で、会うこと。
畏れ多い気持ちもあった。


しかし、今となっては、もっともっと貪欲になって、間近で見てみたかった。その声を聞いてみたかった。


マンボウもので大笑いし、
青春記であこがれ、
木精や幽霊で、物悲しさと同期する生命の光を感じ・・・

「輝ける碧(あお)き空の下で」では、人生の価値というものがいったい何ではかられるのか、なんだかとてつもない、「途方に暮れた感じ」を味わった。

わたしがすぐに就職できなかったのは、もしかしたらこの作品を読んだことも、影響しているのかも・・・。

人間の暮らす、生きる、事実が、幾層にも塗りこめられて、果てしのない・・・

いったい、オレは、どうやって生きていくのか・・・

生きる道筋が、まったくもって霧の中、世界がぐるぐる混沌と見えている20歳の私には、刺激のつよい、でも、読まずにはいられなかった、読んでよかった、と心底思える作品であった。

それがまた、くだらない(本当は最高に楽しい)マンボウものを書く作家の作品だから、これがまた、深い、と感じるのです。

北杜夫さん、わたしの人生に深い、深い、影響を与えた方でした。

NHKのニュース9で、キャスターの大越健介(おおこしけんすけ)さんが、しみじみと、「わたしも何冊も読みふけった」と体験を語っていたので、思わずテレビに向かって、

「おお!あなたも!!」

とうわずった声で言ってしまいました。
みんな、悲しんでいます。
でも、悲しみながらも、北さんを知ることのできた幸福を、心のどこかで感じ取っています。

窓の外、思わず、天の星を見てしまいます。


これからどこかで蝶が飛んでいるのを見たら、しばらくの間は、北さんを思い出すことになりそうです。
世田谷文学館で、北さんの個展があったとき、(もう10年ばかり前)熱烈なファンレターを置いてきたが、読んでいただけたのだろうか・・・。

ご冥福をお祈りいたします。