なぜだか、学校の分掌で、図工主任になってしまった。
新しい学校へ来て、いきなり、である。
前任者が異動して不在となったためだ。
同じ時期に、新規異動してきた私に、その任がまわされたのだ。
いま、図工教育の世界で話題となっているのは何か。
「鑑賞」である。
これまでは、作品をつくる、製作することがほとんどであった。
図工の時間には、作品を作るのが一般であった。
しかし、新しい指導要領には、「鑑賞する」力が明記され、そこに重点が置かれるようになった。
図工教育も、変化を迫られている。
さて、鑑賞する力を身につけさせるためにいろいろなことを教師は考える。
鑑賞とは何か。
そもそも・・・
それで、同市内の小学校の図工主任がさそいあって、(といってもほぼ強制的に)美術めぐりをすることになっていた。
少し前のことになるが、院展を見に行った。
今年の、春の院展、である。
今もどこかのデパート等で開催されていると思う。
催事場を借り切って、入場料をとって、公開している。
私は東海地区の会場で、院展を見た。
そこで、インパクトの強い数々の「日本画」を見た。
図工の鑑賞となると、ゴッホやピカソの鑑賞が一般的。
なかには葛飾北斎などの浮世絵が、ゴッホとの関連から授業にかけられることもある。
印象派の数々の作品は、これまでいろいろと教材となって活用されてきているようだ。
日本が所有している名作の点数も世界的に見ても多いためだろう。
ところで、院展を見て、日本画に対する印象がずいぶんかわった。
ずいぶん、親しみを感じた。
なんだか、とても自由な雰囲気がした。
花鳥風月、鯉が水の中で泳いでいたり、きれいな山の風景画だったり、そうしたものを「日本画」と思い込んでいた。
だが、今回、院展で見たのは、それとはちがった。
本当に自由なモチーフ。
まるで油彩のような世界がひろがっていた。
道具や仕立て、方法はちがっても、描きたいものを描く、という点では、洋画も日本画も同時に変わらないものであったのだった。
さて、その中で、印象に残った作品がある。
今回初入選だった、岩田隆氏の「コスモス」という作品がそれだ。
あたたかなコスモスの色調、淡い空間の中に、少女がまっすぐに横を見て、立っている。あるいは歩こうとしているのか。
コスモスが、まるで彫刻の「浮き彫り」のように、画面下に浮き上がったように見える。また、少女の半身をすっぽりと包みこむように、コスモスがその生命力を湛えながら、上方へとなびき、流れようとしている。
少女の、端正な横顔。
そして、落ち着き払ったまなざし。
自分、という存在、人間と言う存在、そして、成長しようとしている少女の、生きる姿までが想像できるような気がした。
本当に、生きているような気がした。
コスモスの生命力が、それを感じさせたのだろうか。
わたしは、しばらくそこから動けなかった。
私にとびこんできた印象が、いったい何なのか、この
「初めての感じ」が、いったいどういうものなのか、整理したくて、ずっと自問を続けて動かなかった。
こんなふうに絵を見たことが久しぶりで、なにかとても新鮮だった。
無名であろう、新人の作家の作品。
これまで、自分とはなんのつながりもなかった作品との出会い。
「出会い」というのが、こういうものか、とも思った。
有名で、名の知れた人の作品でないがためにむしろ、自分に起きた変化の衝撃が、強くて印象が強く残ったのかもしれない。
あとで、出入り口のところで、今年の院展の作品写真集を見た。
ふと、購入してみようかと思ったのだ。
「2010 春の院展 作品集」とか書かれた、その分厚い写真カタログのような本を手に取ってみた。
そして、さきほどの強烈な印象を私に残した、「岩田隆」という新人作家の「コスモス」を見た。
残念にも、本物よりもかなり暗く写っていた。
実際は、もっとピンク色が明るくて、光っているようなイメージの作品であるはずなのに、どうしても、写真になると、ちがってきてしまう。暗くなってしまっていた。
私は、一度手に取った写真集を、元に戻した。
http://www.nihonbijutsuin.or.jp/ippan_65/index.html
(ギャラリー → 入選作品 → 岩田隆)
買うのか、と思って百貨店の人がレジの前に移動してくれたが、軽く会釈をすると事情を察してくれた。
代わりに、絵葉書を数点、買った。
院展の同人である有名作家の絵らしかった。
しかし、わたしには、それはあまり価値のないものだった。
岩田隆・画伯の、コスモス、があれば、本当にそれがほしかった。絵葉書には、まだなっていなかった。新人の初入選である。まだ、絵葉書にはならないのだな、と思った。
さて、どんなふうに授業に生かして行こうか。
鑑賞の授業は、奥が深い。
どんなめあてで、授業を進めていくか。
何を知ってもらうか、どんな世界をイメージできるか。
子どもたちにとって、新しい世界に出会うような、そんな新しい授業を模索していきたい。
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