5年ほど、中学校で講師をやり、中学校の教師をめざしてきたが、ふとしたチャレンジ精神から小学校の教員採用試験を受けたら見事に合格した。
そういう先生が、職員室のうしろの席にすわっていらっしゃる。
つい先だってまで、中学生を相手にしていたのが、急に10歳にもならない3年生を担任している。
ギャップはあるのだろうか。

そう思って、なにかの折りにうかがってみると、

「いやあ、この子たち、本当に何もできないなあ、とつくづく思いますよ」

ということだった。

それをきいて、

「さぞかし、要求する程度が高いのだろう。子どもはかわいそうだ」

と思った。

ところが、その先生が子どもたちに接している姿を見ると、本当にやさしいし、子どもの目線で接しておられる。見事なほどである。子どももよく先生になついている。

どうしてだろう、と思った。
その先生と話すたびに、

「本当にできないことばかり。こんなこともできないの?というのが口癖ですよ」

という。

しかし、本心からこんなこともできないのか、だめじゃないか!と
子どもたちに接しているのでもないようだ。

要するに、頭の中ではギャップを感じつつも、しっかりと要求する線を調整している。
この子たちは、知らないことばかりだ、というところからスタートしている。
むしろ、最初から小学校の現場に入った私なんかよりも、その線が、低い。
要求する線が低いということは、子どもは楽だろう。
叱られるよりも、むしろ、ほめられることの方が多い。

「先生は、たくさん子どもをほめるのでしょう」

と言うと、そんなことはない、とおっしゃる。

「あきれているばかりですよ。そのたびに教えなきゃいけない」

なるほど。
わかった。

ほめていないにしても、叱っていないのだ。
ちゃんと、最初から、教えている、のだ。

ここがわかったような分からないようなところで難しいのだが、つまり、

「こんなこと、わかっているだろ!!!!」

と言いたくなるようなことでも、言わないでいる。
ちゃんと、

「はい、教科書を開く、といったら、開くのですよ」

とていねいに接しているのだろう。

だから、人気があるのだ。


中学校の元先生に、小学校の子どもたちへの接し方を、習っている、というわけだ。