初任仲間から、携帯メールにSOSが入った。
もうだめだ、という。
すぐに、とにかく集まろう、と連絡。
金曜の夜。何人か、本人の承諾を得た、気心知れた初任仲間を集めた。

詳細に、話をきく。

学級がうまくいってないという話は、すでに聞いていた。
初任で、いきなりの高学年。
たよりの学年主任はまだ若手。苦しんでいる隣の学級まで、手がまわらない、といった様子らしい。
これまでも事件があり、他のベテランが持ちたがらなかった学年。
初任に、それが、まわされたのだ。


ファミレスだと、他人の耳に入るかもしれないというので、急きょ、カラオケボックスに入った。歌が目的なのでなく、じっくりと話を聞くためだ。
とにもかくにも、座るやいなや、話をきこう、となった。

えらい。
彼女は、学級の具体的な事実を、レポートにまとめていた。
自分なりに、客観的に分析したい、と思っているようだった。

学級の荒れ。
なにが、原因なのか。
それはむずかしい。
さまざまな要因が、複数からんでいるからだ。
だから、そういう、原因を一気に解明しよう、というアプローチは避けよう、と話した。
コストがかかりすぎる。時間も、体力も、気持ちも。

だから、こう考えてみた。
どこから、いつからが、ターニングポイントになったか。

まだいける、という感覚があったとき。
そうではなく、もうだめか、となったとき。
その境目。


それを聞いたら、徐々にわかってきたこと。

つまり、初任者の会合のために出張していたときに、ある事件が起きていた。
それは、授業に補教で入った、教頭が引き起こした。

教頭は、本来ならば書写の授業をする。
しかし、そうではなく、こどもたちと、クラスのことについて、話し合った、というのだ。

「今のクラスの現状を見ていて、必要だと思った」

あとから教頭から聞かされたそうだが、事前に、担任には何の連絡もなかった。
あとで聞かされたことだった。

担任のいないところで、クラスのこと、学級のこと、担任の先生のことについて、話し合った、というのだ。
そして、何を引き出したのか。

子どもたちの、不満を引き出した、というのだ。

「まず、不満を出させないと、パンクすると思った」

これが教頭の言い分だ。

「子どもとの信頼関係をつくりなおす必要がある。そのために、まずは子どもたちの生の声を直接聞く必要があると考えた」


そして、アンケートまでする。

子どもたちからは、担任への不満、学級全体への不満が、ぶちまけられた。

子どもたちのわがまま、逃げ、責任の転嫁、担任への不満、そういったものを、紙に書かせたのである。

まじめな子たちまで、そういったことを書いた。
あとで担任のもとを訪れたまじめな女子。
「教頭先生が、そういうことをかけ、というのだけど、書くのがつらかった」
と言ったそうだ。

そして、この時間のあとから、
問題行動がエスカレートしていく。
担任を見る目が、あきらかに、変わったものに感じられるようになった、という。
まじめな子で、協力しようという姿勢のあった子まで、まともに見ようとしないようになった。
どうせだめだ、というあきらめムードが生まれたようだ、と。



アンケートに、先生を変えろ、と書いた子。

それを、書かせてしまった教頭。

こういう意見を、受け止めていく、と約束してしまった教頭。

許せない。