夏が終わると、気になることがある。
北京五輪のことだ。
教室で、どれだけ話題になるだろうか。
話題にならないとさびしい。
しかし、話題になるとしたら、どんな話題として子どもたちは話すのだろうか。
金メダルの数か。
メダルを取った選手のことか。
テロのことか。
あるいは、ドーピングのことか。
最新の時事ネタというのは耳目を集めるから、授業の導入にもいい。
ちょっとした話題の提供や、共有ということだけでは惜しい題材だ。
この地球規模のイベントを、なんらか、知的な話題に仕立て上げて、一つの授業に出来ないか。
たとえば、道徳の授業。
スポーツのシーンにはいろいろなドラマがある。
知られざる苦闘。
過酷な練習に耐えるモチベーション。
記録にこだわる姿勢。
あきらめない、という生き方を伝えていく。
こうしたねらいをもった教材が様々、できるにちがいない。
また、社会的な観点から。
総合的な学習の時間がよいかもしれない。
オリンピックの歴史を振り返り、スポーツの祭典であるオリンピックが2度の大戦を乗り越えても続いてきたこと。
このことだけでも、学ぶ価値はあると思う。
一世紀前にクーベルタンというフランス人が考え出した五輪の旗。これは戦争や独裁の時代を生き延びながら、それでも人類がスポーツという娯楽を通じて交流してきた、ということの証でもある。
第1回1896アテネ(ギリシャ)から始まり、平坦ではなかった戦争の世紀の中、ずっと人類は五輪の祭典を続けてきた。五輪が生き延びてきた年月を思うと、今回の五輪にも成功なり失敗なり、いろいろな側面はあろうが、人類社会が発展していくための一つの節目になるだろう。
中国については、吉田道昌氏が日本語教師として武漢大学に赴任したときのことを本にしている。(架け橋をつくる日本語―中国・武漢大学の学生たち 吉田 道昌:著)
とあるご縁から、吉田氏から、赴任前や赴任中、そして帰国後にも、さまざまな中国の姿を聞くことができた。
パスポートを投げてよこす、税関でのぶっきらぼうな対応、どちらが客か分からない食堂での対応など、せいいっぱい我を通そうと突っ張ろうとする中国の人の生き様に、複雑な思いを抱いたそうだ。
他を出し抜いても、自分が生きていかねばならない。その厳しさの中で、平然と嘘をついたり、手を抜こうとしたりする。
吉田さんは教師として、中国へ渡った。現地でこうした姿にふれるたび、中国での教育に対する情熱がふつふつと、湧き上がったにちがいない。
やがて、武漢大学の学生は、だんだんと自分を開き、意見を率直に交わすようになり、先生を慕い、敬うようになってくる。このあたりのことが、実にありのままに、著書の中では語られていた。
この著書のように、マスコミではない、一般人の書いた、中国が知りたいのだ。
事実、ありのままを率直に報告した、レポート。
ごくふつうの市民どうしが、どう交流したか。
マスコミの流す、妙なナショナリズムに装飾された文脈で語られる中国像を、本当に信じてよいのかどうか、とても不安になる。
ふつうの人の書く、中国交流レポートが知りたい。これからは、こうした文脈の本がますます重要になるだろう。これは、数少ない、ありのままの事実を書いた、素朴な日記風のエッセイである。
この本でも紹介されているのだが、中国の人は一人ひとりをみると、誠実で、マジメで、国を何とかしたい、あるいは故郷の村をなんとかしたい、と思っている人たちが多いようだ。
しかし、国全体を見ると、市場経済としては巨大化しているものの、マスコミは自由そうでないし、健全なジャーナリズムがあるとも思えない。社会の事件をさまざまな角度でチェックする機能があると思えないところがある。(ギョーザ事件など)
また、いわゆるコピー文化が大手を振ってまかりとおってしまっていることからも明らかなように、市場が洗練された文化を求めているようでもない。
一方で、これらは時間が解決するだろう、という期待がある。そのうちに民度が上がり、中国人どうしが、どんどんとお互いを批判しあうこともできるようになり、コピーで満足せず洗練された自分達の独創を発露するようになるだろう、という期待だ。
この期待に、これから中国という国が挑戦していく。
その姿を見つめることは、そのまま自分たちの国、日本という国を見直していく視点を獲得することにつながる。
こうしたところまで、われわれが自分たちの国の民度をふりかえってみようとするところまで、授業を組み立てていくことができないだろうか。
こうした授業は、政治的な要素が多分に加わる。
今は保護者の目を気にする時代だ。
少しでも批判を受けそうな話は、封印される。
(原子力を扱うことですら、おそるおそる、という空気がある)
中国という国を授業の素材にして扱うのには、覚悟がいると思う。
しかし、隣国なのだ。
隣国を知り、自国を知る。
そのためには、五輪を契機に、子どもたちと共に学ぶことが必要だと思う。
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