「崖の上のポニョ」のオープニング。
とても静かなうつくしいメロディが流れる。
林正子さんが歌う、「海のおかあさん」だ。

画面には、とてもたくさんのクラゲやプランクトンが泳ぐ。
映画館全体が暗くなり、しずかな音楽、ゆったりとしたテンポで曲が流れてくる。うちの子(4歳)をみると、この時点で目がとろんとしてきていた。(その後10分後には寝ていた)

この曲、「海のおかあさん」の元になった詩、「さかな」という詩がある。
覚 和歌子さんの詩集を手に入れた。

「100万回生きた猫」という絵本があったが、ふとそれを思い出す。
何度も生まれ変わる、という輪廻転生。
生命は転生するというテーマが底にある。

詩を読むときは、紅茶が合う。
アイスティーにして、さて、と読みはじめた。
嫁と子は友だちのうちへ。

ひさしぶりの、静かな午後。
こんなふうに、
ゆっくり詩を読めるチャンスはあまりない。


いちばん心ひかれたのが、最後の長い詩だった。
「素晴らしき人生」について、という題だ。

おじちゃん、おばちゃん、へ書いた手紙、という体裁だ。
話者は夏休みにおじちゃんの家へ遊びに行き、そこで考えたことをふりかえりながら、おじちゃんおばちゃんへ手紙を書いているのだ。

  お元気ですか
  東京に帰ってきて もう三日
  相変わらず ずうっと三十度以上の日が続いています

こんな書き出しで始まる。


その中に、こんなフレーズがあるので、これで1時間くらい考えた。

  人生はそんな甘いもんじゃないんだから とか
  働かざるもの食うべからず とかは よく聞きます むかつきます

この箇所で、はたと目がとまって、そこから進まなくなった。

「人生ってけっこう甘い」
というコピーを考えて、ソフトクリーム屋の開店チラシをつくった時のことを思い出した。あのとき、開店直後の店の前で、チラシをくばりながら何度も汗をふいた暑さが忘れられない。
新店長となった友人Uがクーラーの効いた部屋から何度も出てきて、
「暑いね、だいじょうぶ」
とこっちを心配していたのを思い出した。

新店長の友人Uが、ソフトクリーム屋をすることになった、と知らせに来たのは、1ヶ月ほど前だった。
「ついては」
Uは、張り切った笑顔で言った。
「どうやって広報するか、考えたいんだけど」

白いTシャツにプリントをして、スタッフにくばることにした。
その図柄とコピーを考えてほしい、という。

当時、会社の広報部にいた私に、アイデアをくれ、というのだ。
それまでも小さなイベントのコピーを考える仕事をしていたから、おもしろがって相談しに来たのだ。

そこで、あれこれ考えた挙句、

「人生って、けっこう甘い」
というコピーが採用されたのだ。

当時、このコピーを考えるときに友人と、人生をよく語り合った。
ふりかえると、お互いに苦労してきているようなのだが、当人はぜんぜん苦労と思っていなかった。ずっと楽しんできたなあ、まるで春の日のような心地よさが、人生全体に流れていたなあ、と感じていたのを、ふたりで

「お前もそうか!」

と意気投合したのを思い出す。

「俺たちは、愛されてきたなあ」



さかなの詩から、アイスティーを飲みながら、なつかしい20代を思い出したのだった。



窓の外を見ると、日傘をさした女の人が歩いている。
おまつりで買った風鈴が鳴り、アイスティーのグラスについた水滴が、ひとつ、流れて落ちた。