社会見学で消防署を見学した。
列の順番で並ばない子がいる。

「俺はいつも後ろ。なんで順番でならばなあかんの」

いつも後ろで我慢しているのだ、という。

勝手に列の前半へ出てきて、歩こうとする。

制止するも、しつこくくり返す。
大声で文句を言う。

文句の内容が、だんだんすり替わってくる。

なんで俺だけ!

よくあるパターンだ。

俺だけ、差別されている。
教師が差別している。
俺は我慢している。その我慢を強いているのが、教師だ。教師は他の奴をひいきし、俺だけを特別に虐げている、という論理だ。

「そうか、君はよく我慢しているな」

という声かけをする。
これはレベル1。

次第に、そんな声かけくらいでは、我慢できなくなり、列を無視して歩き始める。

勝手にさせておかない。
これがレベル2。

「今は列に並んでいかないといけない。後ろで見にくい、というのがあるんだなあ。でも、勝手に順番を変えて良い訳ではない」

あなたは勝手に、順番を変えようとしている。
「自分勝手に、ルールを決めて、行動している。」

このことをこちらでぶれさせず、気持ちの軸にすえておく。


口をとがらせて、文句たらたら、歩いている。

「後ろばっかりにさせてやがる」
「自分のところに並びなさい」
「いやだ」
「並びなさい」
「なんで勝手に決めるんや」
「並びなさい」

シンプルに、繰り返す。
目を見る。視線をそらさず、同じ指示を繰り返す。
猿の調教風だなあ、と思うが仕方がない。


見学が終了すると、教師への文句が爆発だ。

「ちっともおもしろくなんかなかったわ。先生が勝手に順番決めて」

これもよくあるセリフで、『先生が、勝手に・・・』という。

先生の決めたことは自分は守りたくない。自分は自分の決めたルールで動きたい。というわけだ。

「そうか。おもしろくなかったか。順番で行かなきゃならんもんなあ」

同意はしないが、共感する。この程度で、さらりと流した。



見学後、ひとりで残す。これがレベル3。

少しだけ、話をする、というと、素直に教室に残っている。
これをみると、まだ4年生だなあ、と思う。
一人だけ、というのがポイントだ。
取り巻き連中がいるが、小物といっしょにはしない。
個別に話をする。
でないと、個人個人、一人ひとり、かかえている問題もちがえば、家庭環境、生育歴もちがうのだ。どんな話がでるか、飛び出てくるか、本当にわからない。プライバシー保護が大切だ。ボスだって、一人でいると、ポツリと本音をもらすことがある。


先生は、あなたのことも大切だけど、他のみんなも同じように大切だ。
だから、あなたが自分だけで決めたルールを、クラス全員を巻き込んで通すことはできない。
という話をする。

不満顔は、おさまらない。

「いつも後ろだものね。我慢していることが多いかもね。でも、そうやって後ろの人がいるから、前の人がいるんだね。全員前、というわけにはいかないからな。」
「後ろばっかりで、やる気無くなる!」
「そうか。一番前で見たい、と思うくらい、今回の社会見学、やる気だったんだな」
「・・・」
「そういえば、後ろだ、といって文句言ってたけど、ノートはしっかり書いてたなあ」
「・・・」

あなたのことは、意識しているよ、わかっているよ、見ているよ、・・・

と思いながら、5分ばかりつきあった。

大きくなってくるにしたがって、個別の対応が増えてくる。
もちろん、クラスのルールを平然とやぶる行為、誰が見ても明らかなルール違反については、クラス全員の前で、毅然と叱る必要がある。ただしこれは、現行犯であったり、確実な証拠があがっていて、どうあがいても子どもに勝ち目がない、言い分はない、というときだ。

そうではなく、なにか言いたいことがたまっているようなとき、ルールにはふれないが行動が気になるとき、個別に対応する。

ほめるときも、集団の中でほめる場合と個別の場合がある。ふさわしさ、がある。
それは自分で、感覚をみがいていかなければならない。

名前を出さずにほめ、
「今、○○をして、がんばっていた人がいます。みんなは気付いていないかもしれませんが、いたんですよ。名前は言いませんが、立派だなあと思います」
すぐに視線を合わせて、うなずいてやる。

あからさまに目立つことをいやがる子の場合は、とくにそうする。
男子のボスと、気になる女子の大半についてはそうする。
おとなしくまじめな子、性格がよく好かれている女子は、名前を出してあげる。
これは名前を出しても、他の子から攻撃や嫉妬の材料にならないことがほぼ確実であることと、全体の場に出すことで、その子にもっと自信をもって、力を発揮して欲しいからだ。

叱る場合も、集団、個別、どちらがふさわしいか、考える必要がある。
今回は、列を乱そうとした、勝手な行動をとろうとした、ということだ。
全員の前で、「ルールを守りなさい」という意思表示はできた。
人の身体や心を傷つける、という行為でもない。
だから、個別に対応することにした。
注意も、ソフトに。
どちらかというと、共感する、という感じで、話をきいた。
ただし、くぎをさしておく。
「そうか、いろいろと考えや事情があったんだね。」
と事情に共感したあと、
「ただ、勝手に列を離れるのは、自分勝手な行動だったな」


その後、彼のほうから話を変えて、友人のことを話し、帰っていった。