個人面談。

初日。
紺色のスーツ姿で迎える。
教員も保護者も、両方とも、いくぶん緊張している。

不思議なことに、今日はこんなことを話してくれました、というたわいのない、一つのエピソードを話しただけで、とたんに打ち解けて行く。
おもしろいな、と思う。
同じプロジェクトチームの仲間、という感じがする。
気分は、戦友、だ。


おそらく、お互いの脳みその中に、同じ子どもが生き生きと描かれているからだろう。
大人が二人で、一人の子どものことを話し合っている。
そのことが、すでに、「あたたかい」光景なのだと思う。



あの子、こんなところがあるんですよね
そういえば、この間はこんな話をしてくれました
今日はお友だちとこんなことをしていましたよ

話すほどに、保護者の顔がほころんでいく

△△さん、がんばっていますよねえ
それはお母さんが大好きなんですね
やっぱり、ちゃんとわかっているんですね
道理をわきまえているから、そこでハッとするんですよね
けっこう、慎重な姿勢があるんですね
みんなを楽しませたいんですね

いろんな回答が、自分の中から湧いて来る。



あるお母さまと話しているうちに、なんだか泣けてきた。

子どもが兄弟げんかをして困る、という話だった。
どういうふうに対応しているか、お母様が語っていた。

毎日けんかばかりで、本当に困るんですよ。
下の子に、つらく当たるんです。
最初に謝りなさい、というんですが、むくれているんです。
素直じゃないんです。
兄なんだから、と言うと、でも下が悪い、と頑ななんです。
それでワタシ、もう知らない、と言ってやるんです。
お母さんは悲しいワ、と言って、別の部屋に行って、食事の片付けをしています。

すると、そのうちに、

お母さんごめんね、ごめんさない、といって、兄弟げんかをしたことを謝ってくるという。
そのことを、何度もくりかえして、お母様が話をされた。

そのときは、弟の手をひいて、兄として先に謝らなきゃ、という感じだそうだ。

「弟も、そのときはしおらしく、兄の後をついてくるんです。」

そういう話をしながら、お母様は、涙でにじんだ目をしていた。

なんだか、子どもがいじらしくて、ならなかった。

○○くん、お母さんが大好きなんですね。
きっと、それは、お母様がいつも○○くんに、「あなたが大好きよ」と伝えていらっしゃるんでしょう。それが、きちんと伝わっているんですね。

子どもは、ちゃんとわかっていますね、と、二人でにっこりした。

教室を出るとき、深々とおじぎをされ、一年、よろしくお願いいたします、とおっしゃった。
同じことを、本当に言いたくなった。
こちらこそ、と言った。

子育ての幸福とは、何だろうか。
子どもにとって、お母さんの存在がいかに大なるものか。
それを知っているかどうか。


お母様の歩かれていく後ろ姿と、廊下に校長がかざった、白い蘭の花がかぶさってみえた。