初任者1日目。
市役所で、辞令交付の式があった。
この日のために、7年かけたのだ、ようやくたどりついた、という感慨が湧いてきた。

式では、教育長から辞令を手渡してもらう。
新校長と面会し、午後、共に学校へ。

途中、市役所前の桜が見えた。
ほぼ、満開だ。
めでたすぎて、華やか過ぎて、ちょっと恥ずかしい。


学校では、新校長を迎えるために、花道が用意されていた。
そこを、新校長が歩いていく。
待っていた職員がいっせいに拍手。
わたしは、その後をそっと追いかける。

すぐに職員室で、挨拶。
辞令を校長から、みなの前で再度渡してもらった。転任していらした方たちも、同様だ。
ひとこと挨拶、というので、最後に新人としての挨拶をした。

「本日、新採用としてまいりました。初任者ですので、ご指導くださるようお願いいたします」

どっと笑い声が起きる。

それはそうだ。
昨日まで、大きな顔をして職員室を歩き回っていた男が、急に神妙な顔つきになって、初任者でござい、というんだから。

昨年、大変に世話になった先生が、笑いをこらえている姿が目に入った。

昨日までは、臨時任用。今日からは、新採用。
一日ちがえば、世界がちがう。

挨拶のあと、職員会議。
校務の分掌が説明される。
書面を見ると、わたしは、視聴覚主任と情報PC担当。そして、視聴覚の研究会出張に行くことになっていた。

初任者研修もあるから、出張が多い年になりそうだ。覚悟しなければ。
教室に残される子どもたちがかわいそうだが、制度上、仕方があるまい。

他の先生が心配してくれる。
「先生、出張だらけじゃない」

出張の間、子どもたちに何をさせるか、ずいぶん考えなくてはならないだろう。


会議の後、同学年を組む、相棒の先生といっしょに教材を選ぶ。
教材会社が、おおくの教材を運び込んでいる。
子どもたちの実態に合わせて、もっともふさわしいものを選んでいく。
この作業は、他の先生たちは、午前中に終わらせていた。
初任者の私と組んだために、相棒の先生は、午前中はこの仕事が出来なかったのだ。
初任者と組むと、相手の出張を考慮しなければならず、その面の苦労が1年間つづくことになる。

「すみません。待っていただいていて・・・」
「いえいえ。先生は初任ですもん」

作業が終わると、夜の7時をとうに過ぎていた。

相棒の主任が、始業式前にやったらよいことの一覧表をくれる。
このメモを見ながら、すべてを進めていくのだ。
こうしたメモがあれば、助かる。ありがたい。


この後、初任の私は、職員室に戻り、自分の席を整える。
まだ、何も入っていない引き出しに、鉛筆など文房具からそろえていく。
他の人たちは、これも午前中にやってしまっていた。
つまり、出張が多い分、初任者は、すべての作業が後手後手になる。
全体から、ワンテンポ遅れてしまうのだ。

「ようし」

上着を脱いで、Yシャツのそでをまくった。

分掌のファイルやノートを引き出しに。
教材資料や判子類をしまう。
直近のスケジュール表、それに、職員会議の資料を、平たい引き出しに入れて、すぐに取れるようにする。

あれこれしているうちに、時計を見ると、9時。
残っていたもう一人の年配の先生と、帰ろうか、と話す。
扉を閉め、職員玄関の鍵をしめた。

校舎の電気が消えると、街灯のあかりが目立って見える。



さあて。


明日も出張。初任者の研修、1日目が始まる。
さあ、人生に一度しかない、初任者としての1年が始まっていく。