コースケは、徐々に薮の茂みの奥の方へと歩みを進め、だんだんと見えなくなりつつあった。

僕は、声を張り上げて、聞いた。

「コースケ、釣りはどうするのーっ?」

コースケが、何か、大声で返事をするのが聞えた。

「なにー?もういちど、言ってー!」

僕は、もう慌てて竿を引き上げ、針の位置だけ確認すると、コースケの返事に耳を澄ませた。



「兄ちゃん、あのカタツムリ、とってー!」


セミではなく、カタツムリを発見したらしい。兄ちゃんは、おのれの思考スピードが、現実についてきていないのをもどかしく思いながら、

「とにかく、舞台はあっちだ」

と、コースケの声のする方へ、走っていくのであった。



その晩、僕らは、トカゲの卵と、カタツムリをみやげに、キャンプ会場へ戻った。

コースケは、トカゲの卵をポケットの中で割ってしまい、無理から産まれた赤ちゃんトカゲは、30秒くらい動いた後、この世を去った。コースケは、それを埋葬し、遠い目をして、空のかなたを眺めた。


なんだろう。
このコースケのもつ、魅力とはいったい何だろう。
このすがすがしさ、実行力とは、いったい何だろう。

キャンプ会場へもどるとき、コースケは、足取りも軽く、会場へ戻っていき、二度とお兄ちゃんを振り返ることはなかった。

「お兄ちゃんとしては」

僕は、一人ごちた。

「最後に、握手くらいしたかったよ、コースケ・・・」