当日。
昼前になって、キャンプ会場へ迎えに行った。
僕の姿を認めると、キャンプの世話係の方が、
「はい、コースケくんは、このお兄ちゃんとマンツーマンです」
と言った。
コーケくんというのは、どの子なんだろう、と思っていると、小学校二年生にしては背の高い、利発そうな子が飛び出してきた。
コースケは、こうしたキャンプに参加するのは慣れているらしく、会うなり、
「ねえ、兄ちゃん、お昼のご飯食べるの?」
と言った。なかなか素直でよろしい、と僕は安心をした。

たしかに食事がまだだったから、僕はコースケを連れて、村の食堂に行った。
コースケは慣れているらしく、大人用の大きな茶碗や皿を持って、きちんと食卓まで運んだ。
食卓は大人の背丈に合わせて作られているから、コースケが座ると、喉元のあたりに茶碗やコップが並ぶ。それでもいっこうに平気らしく、半分伸び上がるようにして、けなげに飯を食っていた。
僕が、茄子ときゅうりの漬物をぽりぽりとつまむと、コースケはそれをみて、
「僕もちょうだい」
と、皿に取った。
僕は、これはどうなるだろう、と好奇心を膨らませてそれを見た。
漬物である。ぬかづけ、である。
果たして、子どもが、これを好むのであろうか?
僕自身の体験から言えば、漬物というのは、おばあちゃんが好む食べ物であった。また、全体に、それは大人の好む味であった。僕は小さい頃には、漬物を食った記憶がない。おそらく、
「これ、まじい(まずい)」
と言って、食わなかったのだろう。
好んで食べるようになったのは、大学を中退して、田舎に暮らすようになってからだと思う。

コースケは、茄子を口にほうり込み、ぽりぽりと音を立てた。
「どう?うまい?」
僕が訪ねると、コースケは表情を変えずに答えた、
「うん、乙(オツ)な味だ」
僕は、驚いた。
オツな味、なんてことを、ふつうの子どもが言うだろうか?
どうも、変わった子のようだ。
僕は、これからの一日を、どうやって無事に過ごせるか、だんだんと気にし始めた。