小学生のとき、ゾンビごっこが流行した。
ゾンビという死人の妖怪と人間のチームとに分かれて、互いに殺し合うゲームである。ちょうどそのような題名の洋画が映画館で上映されており、生来のお調子者気質からついつい見に行ったのだ。そうして、それがあまりにも可笑しかったので、さっそくクラスでもやろうということになったのである。
私はゾンビ役になった。
映画館で見たとおり、ゾンビーと叫びながら五体をふるわせ、ミシリミシリと音を立てながら廊下を歩いて行くと、クラスのボスが私の演技はうまい、と賞賛した。私はゾンビの親玉に昇格し、多くの子分を引き連れて人々を襲うはめになった。
ボスは私を指さし、「あのゾンビが一番手ごわいぞ」と怒鳴った。
私は銃やビームライフルなどで狙撃され、すでに身体中ズタぼろになっていた。しかし、そこは元々、死人のゾンビである。なんのこれしき、と残った力をふりしぼり、ウヌ、と叫んで電光のごとくボスに襲いかかった。逃げ惑うボス。
私たちは教室を走り回った。ところが、逃げ足のはやいボスを追いかけ回しているうちに、廊下と教室を隔てている窓ガラスを割ってしまった。
あまつさえ、それでもやめずにボスを追いかけ、ボスの首筋を本当に噛もうとした。私は心からゾンビになりきっていたのである。
幸い、大事には至らなかったが、私の適度を知らぬやり方は大変な非難を浴びた。クラスの担任は、ため息をもらしながら「もうちょっと落ち着いてくれよ」と嘆いた。
私には、適度感覚というものが育っていなかった。何でもやり過ぎてしまうのである。コントロールができない、というよりも、最初から過剰なやり方しか知らないようであった。そうして、自分ではまったくその気がないのに、なぜかやり過ぎてしまうのだった。 (つづく)
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