蜂飼耳さんの「なまえつけてよ」という物語。
授業のねらいは「登場人物どうしの関わりをとらえ、感想を伝え合おう」だ。
以下、授業プラン。
【第1時間目】
かんたんに全体の把握をめあてに音読をした。
その後、
登場人物をおさえて⇒あらすじ確認⇒場面分け
【第2時間目】
主人公「春花」の心情が表れたと思われる叙述に各自で線を引く。
「どこに線を引いたか」+「そこには、どんな心情が現れているといえるか」を合わせて発表。
この時間では、まず第一場面と第二場面の前半まで。
春花がなまえをつける、ということにワクワクしていること、
生まれて初めての体験に、不安も感じながら、それでも嬉しい気持ちでいっぱいなことを把握。
【第3時間目】
前時同様のことを、第二場面の後半で実施。
ここでは、春花以外の主要な人物『勇太』が登場する。
まずは、春花の心情をしらべる。
〇勇太に「すごいね」と言ってほしい。
〇一生懸命に考えている
つぎに、勇太の心情をしらべる。すると、
これを、多くの子が、「勇太の心情があらわれた」個所として考えた。
〇勇太は、ちょっと興味があったけど、でもてれくさかった。
〇勇太は、ちらっとしか見ていないから、まだ春花さんに対して心を開いていない。
また、こんな箇所もある。
これも、学級の子どもたちはほとんどが、勇太の心情が現れている、と考えて線を引いた。
そして
〇勇太は、まだ慣れていない春花に話しかける勇気がない。
〇勇太は正直、こんな話には興味がない。
〇勇太は人のことなんか気にしないわが道を行くタイプで、おまけに春花に関心なし。
などと感想が出た。
それらをすべて板書すると、勇太の心情が非常に冷酷なものに思えてくる。
勇太は春花を、ちらっとしか見ないし、
話しかけたのに、ぷいっとしてしまうし、
『勇太は空気も何も読めない、イカれた男子だ』(ノート原文ママ)、ということになった。
ところが、ある子が、
「最後に折り紙を渡してくれる勇太が、こんなに冷たいわけがない」
と疑問を呈したのである。
その疑問がでると、クラスのほとんどの子が、迷ってしまった。
たしかに、最後の第四場面でみせる勇太の、ちょっと小粋で乙女心をくすぐる行動は、ちょいとそこらのプレイボーイ顔負けの女殺しテクである。乱暴でガサツかと思った男子が、丁寧に折り紙を折り、名前を付けられず傷心している春花に「なまえつけてよ」。
これは、相当な手練手管であろう。春花が校舎の窓から彼をさがし、グランドでサッカーに興じる勇太をそっと見守る心境になるのも無理はない。
そのことと、イメージがちがいすぎるのですよ。
最初にみせた、いけずでちょっとツンツンした態度と
女の子の気持ちをやさしく汲んであげ、さらに気持ちに寄り添ってアクションを起こした彼の姿と。
整合性がとれない。
どちらが、彼の「真の姿」なのでしょうか。
・・・
まったく、学級が混乱してしまった。
わたし「どうする?わかんなくなったね」
みんな「読み直そう」
もう一度、そのあたりの文章を読み直してみる。
やはり、音読が大事だ。
ゆっくりと読んでいくと、重要な叙述が見つかった。
これで、なにもかもがハッキリする。
作者の蜂飼耳さんが、しっかりとひそませているこの叙述。ここに気づけるかどうか・・・。
この決定的なキーワードに、クラスのある女子が目を付けた。
なぜ、蜂飼さんは、陸に「はやくちで」そういわせたのだろう・・・。
灰色の脳細胞がすばやく点滅し、脳内のシナプスに電気信号を送り始める・・・
教室の中央付近、とある女子の目が光り、姿勢が動いた。
その姿勢の動きと、目の輝きの一瞬を、わたしは見逃さなかった。
「はい、Mさん!なにかひらめいた?」
Mさんがはじかれたように席をたち、堂々と述べた。
「これ、春花を救ってるんだと思います!」
え~・・・ざわざわ・・・
Mさんが説明する。
「勇太は、空気を読んだのだと思います」
シーンとする教室。みんなが固唾をのんで、Mさんの言葉を聴いている。
勇太は、だだをこねるような弟の要求に、春花が困ってしまうのではないかと空気を読んだ。
そして、若い母親が幼児の手をひいて、スーパーのお菓子売り場を去るときのように、
「ほら、いくよ、いくよ、そらそら」とその場を離れようとしたのである。
これは、周囲に機敏に目を配り、心を配っているからこそできる芸当であろう。
Mさんは、だいたい次のようなことを、一生懸命に説明した。
弟が春花に迷惑をかけないように・・・と思った、だからこその、もう行こう、だったと。それから、そのぷいっとというのは、あくまでも春花の目線で言っていること。そういう印象を受けたのはあくまでも春花であって、事実、勇太がぷいっとしたというよりも、勇太に対する期待が大きかった春花の側の、ざんねんな気持ちがそう見させた、ということかと・・・
〇〇目線。
でました。国語の研究授業で何度もお目にかかる、超有名な国語文章読解技法のキーワードです。
つまり、
ぷいっと
ちらっと
これらはすべて、春花の気持ちなのでした。
実際、人間が、ぷいっと横を向く、ということはできません。もし顔を向けた瞬間に、首のあたりから「プイっ」というような、そんなような音がしたら、事実そう書けるかもしれませんが・・・。
なーんだ。
だったら、この表現、勇太の心情を示すところだと思って線をひいちゃったけど、結局は春花の心情だったんだね。
子どもたちの出した結論:(人物の心情をとらえよう)
〇春花は勇太のことを、ガン見しすぎ。(原文ママ)
〇春花は勇太に過大な期待をよせすぎ。(原文ママ)
〇春花目線は強烈すぎて思い込み強すぎ。(原文ママ)
〇春花は自分の目線におぼれてしまって、勇太の本当の心の動きには気づけていない。(原文ママ)
すごいですねえ。
目線に溺れる。
大人でもできないようなブンガク表現を、平気で小学校5年生がノートに書いています。
認知とはなにか。哲学だな、こりゃ。
授業のねらいは「登場人物どうしの関わりをとらえ、感想を伝え合おう」だ。
以下、授業プラン。
【第1時間目】
かんたんに全体の把握をめあてに音読をした。
その後、
登場人物をおさえて⇒あらすじ確認⇒場面分け
【第2時間目】
主人公「春花」の心情が表れたと思われる叙述に各自で線を引く。
「どこに線を引いたか」+「そこには、どんな心情が現れているといえるか」を合わせて発表。
この時間では、まず第一場面と第二場面の前半まで。
春花がなまえをつける、ということにワクワクしていること、
生まれて初めての体験に、不安も感じながら、それでも嬉しい気持ちでいっぱいなことを把握。
【第3時間目】
前時同様のことを、第二場面の後半で実施。
ここでは、春花以外の主要な人物『勇太』が登場する。
まずは、春花の心情をしらべる。
〇勇太に「すごいね」と言ってほしい。
〇一生懸命に考えている
つぎに、勇太の心情をしらべる。すると、
勇太は顔を上げて、ちらっと春花の方を見た。でも、すぐに目をそらした。という箇所がある。
これを、多くの子が、「勇太の心情があらわれた」個所として考えた。
〇勇太は、ちょっと興味があったけど、でもてれくさかった。
〇勇太は、ちらっとしか見ていないから、まだ春花さんに対して心を開いていない。
また、こんな箇所もある。
「もう行こう」勇太はぷいっと向きを変えて、歩き出した。
これも、学級の子どもたちはほとんどが、勇太の心情が現れている、と考えて線を引いた。
そして
〇勇太は、まだ慣れていない春花に話しかける勇気がない。
〇勇太は正直、こんな話には興味がない。
〇勇太は人のことなんか気にしないわが道を行くタイプで、おまけに春花に関心なし。
などと感想が出た。
それらをすべて板書すると、勇太の心情が非常に冷酷なものに思えてくる。
勇太は春花を、ちらっとしか見ないし、
話しかけたのに、ぷいっとしてしまうし、
『勇太は空気も何も読めない、イカれた男子だ』(ノート原文ママ)、ということになった。
ところが、ある子が、
「最後に折り紙を渡してくれる勇太が、こんなに冷たいわけがない」
と疑問を呈したのである。
その疑問がでると、クラスのほとんどの子が、迷ってしまった。
たしかに、最後の第四場面でみせる勇太の、ちょっと小粋で乙女心をくすぐる行動は、ちょいとそこらのプレイボーイ顔負けの女殺しテクである。乱暴でガサツかと思った男子が、丁寧に折り紙を折り、名前を付けられず傷心している春花に「なまえつけてよ」。
これは、相当な手練手管であろう。春花が校舎の窓から彼をさがし、グランドでサッカーに興じる勇太をそっと見守る心境になるのも無理はない。
そのことと、イメージがちがいすぎるのですよ。
最初にみせた、いけずでちょっとツンツンした態度と
女の子の気持ちをやさしく汲んであげ、さらに気持ちに寄り添ってアクションを起こした彼の姿と。
整合性がとれない。
どちらが、彼の「真の姿」なのでしょうか。
・・・
まったく、学級が混乱してしまった。
わたし「どうする?わかんなくなったね」
みんな「読み直そう」
もう一度、そのあたりの文章を読み直してみる。
やはり、音読が大事だ。
ゆっくりと読んでいくと、重要な叙述が見つかった。
これで、なにもかもがハッキリする。
「今教えてよ、今知りたい」と陸が早口で言った。この早口(はやくち)。
作者の蜂飼耳さんが、しっかりとひそませているこの叙述。ここに気づけるかどうか・・・。
この決定的なキーワードに、クラスのある女子が目を付けた。
なぜ、蜂飼さんは、陸に「はやくちで」そういわせたのだろう・・・。
灰色の脳細胞がすばやく点滅し、脳内のシナプスに電気信号を送り始める・・・
教室の中央付近、とある女子の目が光り、姿勢が動いた。
その姿勢の動きと、目の輝きの一瞬を、わたしは見逃さなかった。
「はい、Mさん!なにかひらめいた?」
Mさんがはじかれたように席をたち、堂々と述べた。
「これ、春花を救ってるんだと思います!」
え~・・・ざわざわ・・・
Mさんが説明する。
「勇太は、空気を読んだのだと思います」
シーンとする教室。みんなが固唾をのんで、Mさんの言葉を聴いている。
勇太は、だだをこねるような弟の要求に、春花が困ってしまうのではないかと空気を読んだ。
そして、若い母親が幼児の手をひいて、スーパーのお菓子売り場を去るときのように、
「ほら、いくよ、いくよ、そらそら」とその場を離れようとしたのである。
これは、周囲に機敏に目を配り、心を配っているからこそできる芸当であろう。
Mさんは、だいたい次のようなことを、一生懸命に説明した。
弟が春花に迷惑をかけないように・・・と思った、だからこその、もう行こう、だったと。それから、そのぷいっとというのは、あくまでも春花の目線で言っていること。そういう印象を受けたのはあくまでも春花であって、事実、勇太がぷいっとしたというよりも、勇太に対する期待が大きかった春花の側の、ざんねんな気持ちがそう見させた、ということかと・・・
〇〇目線。
でました。国語の研究授業で何度もお目にかかる、超有名な国語文章読解技法のキーワードです。
つまり、
ぷいっと
ちらっと
これらはすべて、春花の気持ちなのでした。
実際、人間が、ぷいっと横を向く、ということはできません。もし顔を向けた瞬間に、首のあたりから「プイっ」というような、そんなような音がしたら、事実そう書けるかもしれませんが・・・。
なーんだ。
だったら、この表現、勇太の心情を示すところだと思って線をひいちゃったけど、結局は春花の心情だったんだね。
子どもたちの出した結論:(人物の心情をとらえよう)
〇春花は勇太のことを、ガン見しすぎ。(原文ママ)
〇春花は勇太に過大な期待をよせすぎ。(原文ママ)
〇春花目線は強烈すぎて思い込み強すぎ。(原文ママ)
〇春花は自分の目線におぼれてしまって、勇太の本当の心の動きには気づけていない。(原文ママ)
すごいですねえ。
目線に溺れる。
大人でもできないようなブンガク表現を、平気で小学校5年生がノートに書いています。
認知とはなにか。哲学だな、こりゃ。