元エンジニア・新間先生の自問自答ブログ

転職を繰り返し、漂流する人生からつかんだ「天職」と「困らない」生き方。
高卒資格のまま小学校の教員になった筆者のスナイパー的学校日記。
『叱らない で、子どもに伝え、通じ合う、子育て』を標榜し、一人の人間として「素(す)」にもどり、素でいられる大人たちと共に、ありのままでいられる子どもたちを育てたいと願っています。
生活の中の、ほんのちょっとした入り口を見つけだし、そして、そこから、決して見失うことのない、本当に願っている社会をつくりだそう、とするものです。
新間草海(あらまそうかい)

レジで金を払おうと待っていた。
目の前は、腰の曲がったおじいさんであった。
一瞬、隣のレジをチラ見したけど、そちらもすでに並んでいた。

おじいさんは現金で代金を払おうとしていた。
わたしは頭の中で、次の社会の授業の展開を考え始めた。
「水産業は終わったから、工業の1時間目だな。さてどうすっか」
いつも、レジで待つときはこうすることにしている。

レジの会計係は、大学生らしきお兄さんであった。
小柄だがシャープな眼鏡をかけたイケメンで、そのまま仮面ライダーの若手俳優になれそうだった。

若いお兄さんは
「Tカードをお持ちでしょうか?ポイントがつきます」
と言った。

その瞬間、目を細めて小銭入れをまさぐっていたおじいさんの手が止まった。

チッ

私は心の中で舌打ちをした。
「余計な情報を・・・おじいさんTカードなんて持ってなさそうだろ」

おじいさんは手の動きを止めたまま、
「丁ポイントは・・・どうだったけかな」
とつぶやいた。

その様子を見て、わたしの後ろの客は、素早く隣のレジに移動した。
カニのような横移動が見事なくらいで、わたしもすぐにそうしたくなったほどだ。

ところが、私の耳に残った、イントネーションがそうはさせなかった。
おじいさんは、

T(ティー)

とは発音しなかった。

かっこよいほどにクリアなボイスで、

「丁(てい)」

と発音したのだ。

わたしは何事ならんと興奮し、その続きを聴くためにそのままそこに残ることにした。
脳内で、なにかが点滅し、「・・・ブログに書けるぞ、書けるぞ・・・」と繰り返したからである。

「丁(てい)ポイント」

おじいさんの見事な発音を聞いていると、本来はこっちだったのか、という錯覚さえ起きそうだった。

ちなみによく言われている道路交通法上の「丁(てい)字路」というのは、ただしく「丁(てい)」である。
それをたいした知恵もない若輩者がなにをとりちがえたのか「T(ティー)字路」だと勘違いした。今では国民の約半数が、T(ティー)字路と思っているそうだ。しかし、あくまでも法規上は『丁(てい)』。さすが、昭和20年代に策定されただけのことはある。

さて、おじいさんは
「丁(てい)ポイントはどうだったっけか」
とつぶやきつつ、何かのカードを取り出した。

「いえ、こちらはカインズの会員カードですね」
にべもなく、突き返す若い店員。

わたしはその態度にむかついた。
一緒に探してあげるとか、なにかもうちょっと人間らしいあたたかな心遣いがあろうに。

おじいさんは狼狽した様子でさらに次のカードをレジのトレイに置いた。

「こちら、どこかのクリーニング店のカードですね。Tカードは無いでしょうか?」
スマートな眼鏡の奥で、冷たい目線をいささかも動かすこともなく、店員は言い放つ。

おじいさんはめげずに、
「丁(てい)カードは・・・。はて、ばあさん何か言っとったかナ・・・」

レジはしばらく時間停止状態となった。
おじいさんは彫刻のように動かず、立派なことに若い店員も見事に停止していた。
ついでに私も目の前のリアルな動画に興奮し、心臓以外は停止していたと思う。

やがておじいさんが三度目に取り出したカードは、どうやら本物のTカードらしかった。
わたしだったら、どうしたろう。
「素晴らしい!お客様、やっと丁(てい)カードが出ましたね!」
と歓喜の声を上げるのではなかろうか。

ところがその冷静沈着なスマートお兄さんはやはり動ぜず、そのままシャッと機械に通し、秒でカードを返した。

さて、ようやく現金払いの儀式にうつることができる。

現金をふたたび探し始めたおじいさん。今度は、『釣り銭を減らす行為』に出た。

「いくらだったかいね?」
「1421円です」


青年はひとことも無駄口をたたくことがない。
「そうですね」もなければ「はい」という合いの手も無い。
よく訓練されたレジマシーンである。
しかし、今はその方が何倍もありがたい。

「ほんなら、21円を出そうかなあ」
おじいさんは指で小銭入れをかき混ぜながら、ゆっくりと言った。
すると、上記のセリフを言い終わるか言い終わらないかのうちに、レジマシーンの見事な技がくりだされたのである。

「Tポイントで21円を出せますので小銭は要りません」

そのとたん、
シャキーン
どこかで、金属音が聞こえた気がした。
そして、青年の四角い眼鏡の縁が、一瞬、まばゆく光った。

彼は活舌が良い。おそらく市内で五本の指に入るくらいだろう。
だから、この長いセリフをたったの1.5秒ほどで言い終えた。
わたしも、かろうじてその前半が聞き取れたくらいだったから・・・。

さて、そのおじいさんには聞き取れなかったのだと思う。
速すぎて。
もしかすると、最後の
「小銭は要りません」
だけが聞こえたのかもしれない。

おじいさんはとたんに相好を崩したような表情となり、
「えええ、ほんまか。ありがとう、ありがとう」

青年はすぐに、じいじから札を受け取り、瞬く間に会計を終えた。

「はい、次の方どうぞ」

にこっとして、彼の白い歯が見えた。
わたしは一瞬、彼を抱きしめたいような気持ちにさえ、なった。

おじいさんは弁当をもち、よっこら、よっこら、と歩きはじめる。
わたしの会計はもちろん丁ポイント。スマートに会計を済ませ、若者の笑顔に送られた。

さて、おじいさんがカードを何枚も持たねばならないのは大変なことである。
ここで提言したい。
日本国民は還暦を過ぎたら、
〇丁ポイント
〇dポイント
〇ポンタ
〇WAON
などはもちろん、マツモトキヨシもビックカメラもナナコポイントもすべて、気にしなくても良いようにしたらいい。
すべて、還暦カード(シルバーカード)に統一するのである。
どの店でも、還暦をすぎたらそのポイントがつく。
そして、そのポイントを使えば、いつでも買い物の会計額のうち、10の位と1の位が、00に自動的にそろうのである。

そうしたら、還暦すぎると買い物が楽でしょうがない。
政治というのは、国民生活のためにあるのである。
だから、政治という仕組みをそうやって便利に使うべきだろう。

ということで、還暦カードのデザインを募集中です。
どしどしご応募ください。
わたしのクラスの子(現在5年生)が、将来の夢で総理大臣になる、必ずなる、と断言しております。なので、一応今からそのように頼んでおきます。いずれ実現するでしょう。間違いない。
(同時に、Tカード丁カードと呼んでよい、という法律もつくってもらいますネ)

card
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