元エンジニア・新間先生の自問自答ブログ

転職を繰り返し、漂流する人生からつかんだ「天職」と「困らない」生き方。
高卒資格のまま小学校の教員になった筆者のスナイパー的学校日記。
『叱らない で、子どもに伝え、通じ合う、子育て』を標榜し、一人の人間として「素(す)」にもどり、素でいられる大人たちと共に、ありのままでいられる子どもたちを育てたいと願っています。
生活の中の、ほんのちょっとした入り口を見つけだし、そして、そこから、決して見失うことのない、本当に願っている社会をつくりだそう、とするものです。
新間草海(あらまそうかい)

S氏は小学校の教員だった。
土日にはわが子が通っているサッカースクールの遠征に他県まで付き合い、疲れて帰宅する。
「明日からまた授業か・・・」

さて、場所は変わって、小学校。
授業が終わって放課後、職員室で深いため息をつく。
「月曜日なのにこの疲労感か。なんのための休日なんだろ」

それを聞いた同僚のN先生が同意する。
「ほんとよねえ。月から金まではクラスの子たちを世話する。土日はわが子の世話。まったく気の休まらない毎日だわ・・・」

次の土日もまた遠征。
今度はちがうサッカー場。
試合後、息子のユニフォームやスパイクを車に積みながら、S氏はため息をつく。
「今日はまた遅くなりそうだぞ、こりゃ」

サッカーの試合を終えて、高速道路をとばし、帰宅する。
すでに後ろの席で眠り込んでいる息子の寝顔を、バックミラーで見ながら
「明日からまた授業か」
とつぶやく。
S氏にとっては、休んで良い曜日など無いのだ。


ところが、だ。

次の朝、起きてみると、なんだか目覚めがちがう。
ふしぎと身体が、休日の朝を迎えたかのような感覚を覚えた。

「あれ。今日は月曜日だよな。出勤しなきゃ」

慌てて着替えてリビングへ行くと、まだ着替えてもいない妻がいた。
パジャマ姿のままだ。
ぼうっとして、冷蔵庫の扉に手をかけたまま、立ちすくんでいる。

「なんだ、そんなところで。今日は月曜日だぞ」

「そうよねえ」
妻の目が定まらない。
「わたしも月曜日だと思って、朝食をつくりにきたのよ。でも、こうやって冷蔵庫の前に来たら、なんだかどうしても、今日が休日だったような気もしてきたのよ。どうしてなのかしら」

妻にそういわれると、そういう気もしてくる。
「あれ。おかしいな」
妻の口から「休日」という言葉が出てきた瞬間、自分の脳裏に
「そうだ、今日は休日だったはずだ」
という強い感覚がよみがえってきたのだ。

「あ、そうだった。なんだっけ?祝日なんじゃなかったっけかな?」

そういって、リビングにあるカレンダーにふと目をやって、驚いた。

カレンダーの今日の日付が、おかしいのだ。

「あれ?今日は8日のはずだが・・・」

カレンダーに目をやる。
「たしかに昨日は・・・7日の日曜日だったよな」

きのうの日付け、7日の場所にはS氏の手で、マジックの赤い丸が書かれている。
そして、「Y県I市へサッカー遠征」という字がはっきりと。

しかし、その隣の今日の日付け、8日が見当たらない。
ちょっと待てよ?あれ、どうしたんだ?なにかがおかしい・・・。

良く見直してみると、7日の隣にうっすらと7の字が消えかかったようになった別の字が印刷してある。あきらかに、印刷ミスのように見えた。

「あれ。このカレンダー、まちがっているんじゃないか」

もう一度、目を凝らしてしっかりと横の方をみてみると、ちゃんと次の日が8日で、しかも月曜日だ、という枠があった。
つまり、今日を示す曜日だけが、不自然に増えているのだ。

ええーっ。どうなっているんだ。

サッカー部の息子が、起きてリビングへやってきた。

「お父さん、今日は学校、あるんだっけ?ないんだっけ?」
「なに寝ぼけたことを言っているんだ、昨日が日曜日で、今日は月曜日だろう。学校のしたくをしなさい」
「あれー。やっぱそうか。なんか、今日が休みだったような気がして・・・」
「おいおい、お前までおかしなことになってないか」

やはり。なにかがおかしいようだ。
S氏はそういいながら、思い出そう、思い出そう、としていた。
「今日が休みの日である理由。なんだっけな。祝日なのか、どうだったっけ」

しかし、そうやって思い出そう、思い出そう、とすればするほど、笑いたくなるくらいに、今日が休みの日だろう、という感覚がはっきりしてくる。
もはやその感覚は、どうしようもなく確信に近づいていた。
「なにか理由は忘れたが、どうやら今日は仕事にはいかなくてよい日だった気がするぞ。なんでだったかは忘れたが。しかし、どうにも気になる。いったい今日は何の日だったのか・・・」

S氏は椅子に腰を掛け、テレビをつけてみた。

テレビのキャスターが映り、ニュースをやっていた。
「あれ。ふつうだな」

S氏が言い終わらないうちに、キャスターが緊張した表情で言い始めた。

「たしかに、今日は何曜日だったのか、さきほどからみなさんにお伝えすることができていません。番組にはさきほどからたくさんの視聴者の皆様からの問い合わせが相次いでおります。ただいまも、お電話が鳴りっぱなしです」

テレビの画面の右端には、時刻が表示されている。
それはいつもと変わらない。
しかし、いつもテロップとして出ているはずの、曜日のところだけが、抜けていた。

「ええ、スタジオも混乱しております。現場の誰も、今日が何曜日だったのか、覚えている者がおりません!」

S氏は立ち上がって受話器をとり、職場の電話番号を回した。
しばらくたって、教頭が出た。

「あ、教頭先生でしょうか。おはようございます」
教頭はぶぜんとした声で言った。

「S先生ですか。S先生も分からないんですか!」
その声の調子から、S氏は目が覚めたようになった。

「あ、今日はやはり、出勤日でしたか。しまった。急いで学校へ向かいます!」
「来るには及ばん」
教頭はぶっきらぼうに言った。

「今日が何曜日なのか、さっきから保護者からの問い合わせが続いている。しかし、わたしもそうだが、誰もそれが分からんのです。一応わたしは学校へ来てみたが、他の先生はだあれもここには来ておりませんぞ」
「校長先生はごぞんじないですか」
「校長先生も、さきほど、今日は休んでもいいはずだ、理由はわからんが、とおっしゃって電話を切られた」

なにがどうなっているんだろう。

テレビ画面では天気予報をやっていた。
週間天気予報が映し出されたが、今日のところだけ、曜日が書いていない。明日が8日で月曜日だ、ということだけははっきりと書いてある。

「いったい、今日って何曜日なのかしら」

妻があくびをしながら、また言った。

「月曜日でないのなら、もう一度寝てもいい?」
「まったくのんきだなあ。もしかして月曜日だったらどうするんだい?」
「だって、今の天気予報だって、あしたが月曜日って言ったじゃないの」
たしかにそうだ。じゃあ、いったい今日は何曜日だというのだろう。

テレビでは首相が映し出された。
首相官邸の前にはすでに多くのマスコミが詰めかけ、押すな押すなの騒ぎだ。
マイクを何本も突き付けられ、困惑した表情の首相が言った。

「我が国では、突然今朝、今日がいったい何曜日だったのかが判然としない状況となりました。国中のどのカレンダーを見ても、カレンダーと言うカレンダーがすべて、今日をうまく表示できていない、という報告を受けております。外務省を通じてワシントンやロンドン、パリ、モスクワや北京とも連絡をとりましたが、どの国でも本日が何曜日であったのか、不明という状態であるようです。したがって、本日は・・・」

マスコミの記者たちがいっせいに前に体を寄せる。
そして、首相の顔の前のマイクをさらにグイっと前へ押し出した。
いったい、今日が何曜日だというのだろう。

「本日が何曜日かということですが、個別の案件にはお答えすることを控えさせていただきます」

マスコミから怒号が飛んだ。
「国民はみんな知りたがっています!」
「そうだ!学校だってJRだって、曜日で動いているんです!」

首相は再度、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
そして、なにかを言おうとした。
カメラがさらにその顔をズームにし、記者のマイクが詰め寄った。

「まったく問題ありません。以上。通してください」
「首相!こたえてください!」

首相は仏頂面のまま、車に乗り込もうとした。
マスコミの記者たちがそうはさせまいとして道を阻もうとする。
屈強な体をした黒服のSPたちが、首相のまわりを囲んでもみあいになった。

記者が叫ぶ。
「国民の生活を無視するつもりですか!」
首相がSPの体の向こうから、ひょいと首だけ出して言った。
「その指摘は全くあたらない。粛々と進める方針は、いささかも揺らぐことはない」
「進めるって言ったって、今日が何曜日なのかが分からなきゃ、進めようがないじゃありませんか!」

首相はなにがおかしいのか、顔の下半分で笑み浮かべたまま答えている。
「よく意味がわからないというのが率直なところ。はい、はい、そこを通して!」

女性の記者が金切声をあげた。
「国民の生活なんかどうでもいいというのですか!国民にとっては大事な案件ですよ!」

首相はもはや眠たそうな顔にさえなっていた。
「ああー、まったく問題がない、と言っておりますぞ。レッテル貼りはやめていただきたい。」

テレビの中継は、そこで切れた。

画面がキャスターのいるスタジオに戻ると、困惑したキャスターが続けた。

「今日はいったい何曜日なのか、世界中が曜日を失って、途方に暮れております。わたくしどもは番組を続けますが、曜日が失われた以上、世界中で混乱が予想されます。どなたも冷静になりましょう。非常事態とも言うべき状況です。」

見ると、画面の右上に、巨大なテロップが出た。

「謎曜日」

「へええ。今日はなぞ曜日か。なぞなぞみたいで面白いね、お父さん」
隣で見ていた息子が言った。
「たぶん、学校、ないよね?」
「ああ。たぶんね。」

S氏はぐいっとのびをした。

学校はこの調子では、休みだろう。
妻はもう2階に上っていった。もう一度寝るらしい。

「ねえねえ、お父さん、曜日がなくなったらどんなふうに混乱するの?」
「うーん」
息子はなんだか楽しそうに聞いてきた。

S氏は庭を眺めた。
太陽はふつうにのぼり、あさの光が庭を照らしている。
道の向こうの畑には雲雀(ひばり)がいて、鳴いていた。

しずかに、風がそよいでいる。

「混乱、ねえ」

息子がテレビのチャンネルを次々に変えながら、

「謎曜日♪、謎曜日♪」

と口ずさむのが聞こえた。

曜日
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