困らない叱らない。新間草海(あらまそうかい)の教室日記

漂流する人生からつかんだ「困らない」生き方とは。
転職を繰り返し、高卒資格のまま小学校の教員になった筆者のスナイパー的学校日記。
『叱らない で、子どもに伝え、通じ合う、子育て』を標榜し、一人の人間として「素(す)」にもどり、素でいられる大人たちと共に、ありのままでいられる子どもたちを育てたいと願っています。
生活の中の、ほんのちょっとした入り口を見つけだし、そして、そこから、決して見失うことのない、本当に願っている社会をつくりだそう、とするものです。
新間草海(あらまそうかい)

『Down to Earth』 という店で、水筒(ボトル)を買おうとしていたときのこと。

たかが水筒だが、棚にならんだ商品たちはどれもカラフルである。
豊富なカラーバリエーション。明るい黄色もあれば、深い青や淡い水色も、ある。
なかなか日本ではみかけないような極彩色の水筒が並んでいる。

一目で気に入って、これは良い、と選んでいたら、背後に人の気配。
振り向くと、そこに、インディアンの酋長がいた。

正確には、店員だ。

ただ、見た目が、酋長なだけ。

こんな感じ。

img_1



その酋長が、話しかけてきたのだ。


実は、水筒(ボトル)はすべて口が空いていて、キャップは別になっているようだったので、わたしがキャップを別に買い求めようとしているところを、どうやら見咎めたらしい。

その酋長が早口の英語で、

ペーラペラペラ・・・

と話すのですが、

残念なことに、

皆目、わかりません。

ただし、わたしがそのキャップを持っているのを指さしていたので、キャップを買うなよ、というようなことを言っているようでした。レジのところでどうのこうの・・・というような雰囲気。

わたしは、酋長に向けて、

「わたしはこの店内において、この商品を選んでいるところのものであり、正真正銘、このセットが欲しいのである。つまり、一つはこの空のボトルであり、もう一つは、この空のボトルの口に合うであろう、この蓋、である。わたくしは、天地神明に誓って、これらのセットを買おうと思っているのである」

というようなことを懸命に説明すると、

酋長は哀れみ深い顔になった。

そして、さらにクリーミーな、マイルドな声で、幼子を諭すように、

「お前はこの蓋を、ここでボトルに合わせる必要がない。蓋をボトルに合わせるな」

という。

わたしはこの酋長が言いたいことが、いまひとつ、理解できない。

そこで、酋長の正体を知りたくなった。
あれこれと彼の人となりを観察してみると、どうみても、首から上は酋長然としているが、服装はかんぜんに、店員のそれ、である。

上着は他の店員と同じもの、つまり制服を着ている。
しかし、腰から下はまた、酋長、なのである。
どうみても、店員には見えない。

「こいつは、地元の有名なインディアンの酋長で、今日、たまたま店員と同じような服を着ているのかな」

と怪しんでみたが、彼はニコニコとしながら、他の商品をせっせと整理したり、並べなおしたりした。そしてまた、わたしを見て、にっこりとスマイルをしてみせた。どう見ても、しぐさとやっていることは、店員のそれ、である。しかし、店員とみなしてみても、そのセリフが理解できない。

店員であれば、いうべきことは真反対であろう。
挙動不審な日本人がボトルとキャップを握りしめていたら

「お前はぜひそれを買え!」

というべきであろう。

「どうせ日本に帰ったら、そのキャップは買えない。だから今、そのキャップを忘れずに買え!」

と。




わたしは酋長には黙って、ないしょでボトルのキャップを掌(てのひら)に隠すように持ち、レジへ向かった。

そしてレジに行きつくと、かわいらしい若い女性の店員に計算してもらうと思っていたら、直前でアクシデントが起きた。

なんと、わたしがそろそろ順番になるかと思いきや、急にロシア人のような大男があらわれて、

「お次の方、こちらへどうぞ」

と言ったのである。

そいつはむくつけき胸毛を生やし、腕にも剛毛が生えていた。まくりあげた半そでのすそからは、紫色のタトゥーが見える。
しかし、彼もまた、店員なのであった。

わたしはチラッと、若い女性店員をみやった。
彼女は現地の人らしく、小麦色に焼けた肌で、愛くるしい顔つきの娘である。
彼女の細長い指で、レジをピッピとこなしてほしかったが、もう目の前には愛想笑いで人の2倍くらいある頭をもつ、ひげ面の大男がわたしに向けて手を差し出している。

観念してそっちへ行くと、その大男は、短く、Oh!と言い、

ボトルのバーコードはピッと読ませたが、キャップは何か机の下からささっと取り出してボトルの口金のところに入れ、締めたあと、

「これは無料なのだ。ただいまキャンペーン中だ。お前さんは今日はラッキーだった」

といった。

怪しんでレジから出てきたレシートを見ると、たしかに蓋(ふた)の料金は取られていない。
巨人がくれた蓋を見てみたら、彼が正しく締めてくれている。

どうやら、インディアンの酋長と、このロシアの巨人は、2人とも、正しくサービスをしてくれているようであった。見知らぬ東洋人を『だまくらかそう』とはせず、とても良心的なのであった。

わたしは人は見かけによらぬ、ということを常々、自分に言い聞かせているものであるが、今回は海外で慣れぬカードを使ったりと緊張していたせいもあって、そのことを忘れかけていたようだ。

おまけに、ハワイというところは、人種が多すぎる場所なのである。

表に出て歩いてみると、そこは世界人間博覧だ。

白人、頭髪の黒い白人、金色の白人、茶色の白人、赤毛の白人。
黒人、インド系、ロシア系、オーストラリア系、中近東の人。

東洋人にもいろいろいる。
中国人、韓国人、日本人、東南アジア系。

現地の人にもたぶん、いろんな人がまじっている。
ポリネシア系、ミクロネシア系、さまざまだ。

体形がまたすごい。
巨漢の人、激やせの人が、交互に向こうから、歩いてくる。

服装も、やはりすごい。
ビキニの人と、スーツの人、ムームーの人、アロハの人、そしてポロシャツの日本人。それらが、見事に交互に向こうからやってくる。めまいがしそうである。
だから、ハワイに来ると、だれもが隣の人を気にしなくなる。隣が何人だろうが、気にしているとくたびれてしまうからだ。

おそらく、隣に頭に角が3本生えた宇宙人がいても、帽子を足にはいた人がいても、もはやだれも気にしない。それが、ハワイなのである。


その後、なにげなくさきほどの可愛らしいレジの女の子を見てみたら、客がいない隙に

なにやら鼻の穴に白い紙をまいた筒状のものを入れて、吸い込んでいた。
そして、すこしトロン、とした顔つきになった。

あれはなんだったのだろう。
人はみかけによらぬもの。バイアスをかけるのが人間。バイアスをとりのぞく努力は、けっして無駄にはならない。

鉄則は、いつでもどこでも、通じるものだ。
「バイアスは取り除け」
これは、ハワイでも通用する真理なのであった。


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