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子どもたちがお楽しみ会を企画した。
ところが、うまくいかなかった。
男子が数名泣き、女子も幾人かが泣いた。
女子の大半はうなだれており、残りの男子もどうしていいか分からなくなった。

状況はこう、である。

殴り合いが始まったのは、お楽しみ企画の3つめ。
『リズムで椅子取りゲーム』をやっていたとき。

景品が豪華だった。
みんな、景品がほしくなったのだ。
男子の幾人かで、バトルになった。

景品は、お楽しみ計画係で休み時間に必死になってつくっていた、
アイロンビーズのミッキーマウスである。

これは、教師が見ても、力作だった。
非常によくできていた。
片目をつぶった、ひょうきんな顔のドナルドダックも作られた。
みんな、これが欲しくなったらしい。


最後の一人だけに、この豪華景品がもらえる、ということになり、
とくに男子がヒートアップした。

「おれが先だったよ!」
「おれのが先だった!」
「絶対に、俺だった!」

口で言ってダメなら、こぶしで。

グーパンチ、炸裂!

大泣きに泣いたのが、同時多発で2か所!!


お楽しみ会はまだ続行した。
係りの子たちは、めげない。
最後までやりぬく、とやり切った。
ところが、男子のそのいざこざがあったせいか、どうにも楽しめない。
とうとう、最終的にやっていた『宝探しゲーム』で、再度こぜりあいが始まり、

2回目の、グーパンチ!

すごかったのは、会を進行していた5人の子で、
なんとかグーパンチの4名をとりなし、意見をし、なだめたりしながら、
最後の

「これでお楽しみ会を終わります」

までやり切ったことである。





当然、すぐに振り返りをする。

「今日のお楽しみ会について、言いたいことがある人」

わたしはこれだけ言って、座る。

どんどんと、指名なしで意見が出る。


「何人かのせいで、うまくいかなかった」
「泣いた子がいて、そこから楽しくなくなった」
「けんかはしない、と決めていたのに」

ふだんおとなしい子が、泣きながら目を赤くはらして、

「せっかくのお楽しみ会が、お悲しみ会になっちゃった」

と言うと、教室の中に、どんよりとした黒い雲がかかったようになり、

「ひっく、ひっく、なんでこうなったのかさー、ひっく、よく考えないとさー」

終わったことの安堵と、ようやくこみあげてきた悔しさとで、
しゃくりあげながら話しはじめた、企画メンバー。

「みんなにさー、すごく楽しんでもらおうと思ってたのにさー」


それを聞いて、もらい泣きする子、いたたまれなくて突っ伏す子。

久しぶりのお楽しみ会は、まったくのブラック状態、まさに『お悲しみ会』と化したのでありました。

それでも、大したもんだなと思うのは、なんでこうなったのか、と再検討がはじまったことだ。
このへんが、この子たちの本当の力なんでしょうね。
だってみんな、お楽しみ会ができる人になりたいんだもの。


「景品がなかったら、たぶん、防げたと思う」
「そうだ。景品が良すぎたんだ」
「もし景品がなかったら、〇〇くんも、あんなにヒートアップしなかったんじゃない」

みんなからうながされて、グーパンチをしあった4名が起立。

「うん・・・ぼくも景品に目がくらんで」
「そう・・・景品を見た瞬間に、スイッチが入って」
「景品がすごかったから」
「ぼくも景品が欲しかったし、もらえないと思うと必死になっちゃった」

なんとなく、霧が晴れたようになり、
うつむいていた企画メンバーの中でも、今回しっかり頑張っていたAさんが、気を取り直したように、

「先生、今度は、景品無しでやろうよ」

というと、クラス全員が

「それならだいじょうぶ!」

となった。


ところが、

わたしがすっくと立って、

「いや、先生は、景品があってもいいなあ。だって、すごいかっこいい景品だもの。あんなのがもらえるなんて、すごくいいじゃないの。嬉しいよ~!プレゼントしてもらえて、最高の気分になるよ、一生懸命につくったんでしょう。つくった人は、だれかにあげたいよね、みんな、もらいたいよね。景品があっても、いいはずだと思うがなあ」

と言って座ると、

クラス中(じゅう)が


しーん。

(つづく)

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