Tくんが、Aくんの持っていた、ムラサキ色の木の実を、ぶんどりました。

ひったくった感じ、だそうです。

近くにたまたま居た、支援員の先生が、それを見ていたとのこと。
すぐに対応してくださっていました。


「なんで、とったの?」

「・・・」

「Aくんはとられてどんな気持ち?」

「いやだった」

「ほら、Tくん。いやだったって言ってるでしょう。何とも思わないの?」

・・・・・・

私が到着したときは、上記のような感じの対応でした。


Tくんが終始無言なのが、気になる。


私なら、どうするか、と考えた。

さて・・・・・・
ぶどう取り合いsc



Tくんには、あれこれとたくさんの情報は入りません。

いや、です。

たくさん言われると、それだけで、とてつもないストレス。

耳をふさいで、アワワワワ、という声を出すときもあります。

つまり、煩い、うるさい、五月蠅い・・・ということ。

「なんでそんなに、あれやこれや、と言うの? おれを、少しは放っておいてよ!」

と言いたいんだと思う。



そんなTくんと、コミュニケーションしたいのですから、こっちがやれることを、やる。

1)セリフを短く

2)焦点をしぼって簡潔に

3)今の時点での「ズバリ」を直球で


※3)は少し、解説しますと、
つまり、Tくんとの人間関係が、豊かなものになってきてから、「そろそろお願いね」とはかっていくことがある。
いきなりTくんに要求、お願いをしても、無理だ、というところがある。
成長段階もあるし、人間関係が薄いうちに、あれもこれもやってくれ、じゃあ、虫がよすぎるでしょう。
なので、今の段階として、この程度の関わりにしておこう、ということがある、ということ。


さ、その作戦で、どう進めるか。


まず、彼とコミュニケーションを始めるにあたって、いきなり
「語りだす」
ことはしません。
かつ、
「諭しだす」
とか、
「教えていく」
とか、
「お願いする」
という、つまりはこちらの水道の水を、Tくんのコップに注ぎこむことはしない。

だって、もうTくん、小さなコップがあふれそうだからね。
そして、こちらは、Tくんの、今の心の状態が知りたい。
Tくんに、こちらが、精いっぱい、歩み寄りたい。
教えてもらいたい。
どんな心持ちなのか・・・。


「Tくんは、Aくんの木の実がほしかったの?それとも、ほしくなかった?」


これなら、選択肢ですから、

「ほしかった」にしろ、「ほしくなかった」にしろ、Tくんのありのままの状態を教えてくれるでしょう。
肝心なのは、その後、そのコメントに対して、怒らない、ということであります。
せっかく、自分の内情を教えようとして、伝えてくれたのですから、それに対して、あれこれと言わない。
とくに、批判したり、非難したり、ダメだ、とあからさまな否定の言葉を投げつけることはしません。

「なんでそう思うの!」

と、思うこと自体を否定したりしません。思っちゃいけないことがある、というようなことを言うと、本当にTくんにとっては酷なことになります。
「思っちゃダメ」
なんて、ふつう誰でも、そんな否定をされたら、とんでもない!と思うでしょうし、Tくんも同じです。


さて、もし、ほしくなかった、と言ったとしましょう。

その場合は、

「Tくんが欲しくなくても、いきなり取ったら、友達はイヤだ、と感じるよ。泥棒みたいで、びっくりするし、イヤだし、やめてほしい、と思うんだよ。人のものに手を出すのは、(とるのは)、やめようね。やめることができたら、花丸です」



今回は、↑これだけ、です。(Aくんが強烈にTくんの謝罪を要求する場合は「ごめんなさい」もあり得る)

では、ほしかった、と言ったらどうしましょう。

欲しいと思ったものが、友達の持っているものだったときの、正しいふるまい方について、「教える」。
だって、Tくんには、そういう場合どうしたらいいかが、はっきり見えていないのですからね。
(*いきなり誰かの手の中のモノを奪っても、たいして問題にならない社会もあるかもしれませんが・・・閑話休題)

友達の持っているものが、欲しくなったときはね・・・
次の3つから、やれそうなことを選んでね。

1)がまんする

2)他のものをさがす

3)ぼくもほしいな、「ちょうだい」と言ってみる


友達が、「いいよ」と言って、くれるかもしれないしね。
そうしたときは、「ありがとう」と言えるといいよね。

でも、「だめ」と言って、くれないかもしれないね。
そのときは、あきらめよう。

そこまで、伝えておく。
必ず、ある事象の、Aパターンを伝えた場合は、起こり得るBパターンも伝えておくことが必要だ。
Aパターンだけを期待して、行動したTくんにとって、Bパターンが起きた場合は、相当に混乱することになるからです。
彼には、ダメージが大きい。混乱し、精神がメタメタになってしまいます。そうさせたのは、Aパターンしか教えない、という、えらく中途半端な話をした、教師です。その対応が、Tくんを追い込んでしまう。


さあ、Tくん。
1)2)3)のうちの、どれならできそう?


1)も2)も、できたら、花丸。
3)は、ありがとうが言えたらマル。
仕方ない、とあきらめられたら、スーパー花丸。(かなり高度だ)


今度、同じようなことがあったら、こんなふうに対応する(つもり)。

で、実際、いちばんよい解決方法は、2)です。
木の実が潤沢、豊富にあるので、それをTくんもゲットすればいいだけ。
木の実は、ちょっと校庭の端っこまで走れば、それこそ唸るほど成っているのですから、Aくんが、Tくんを休み時間に連れて行って、
「ほら!Tくん!ここにいっぱいあるよ!取りなよ!ほうら、Tくんもぼくも、同じ木の実だね!(にこにこ)」

これが一番、よい。
世界人類も、これができればいいだけの話ね。