困らない叱らない。新間草海(あらまそうかい)の教室日記

漂流する人生からつかんだ「困らない」生き方とは。
転職を繰り返し、高卒資格のまま小学校の教員になった筆者の自虐スナイパー的学校日記。
『叱らない で、子どもに伝え、通じ合う、子育て』を標榜し、一人の人間として「素(す)」にもどり、素でいられる大人たちと共に、ありのままでいられる子どもたちを育てたいと願っています。
生活の中の、ほんのちょっとした入り口を見つけだし、そして、そこから、決して見失うことのない、本当に願っている社会をつくりだそう、とするものです。
新間草海(あらまそうかい)

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思い出すのは、教員になりたての頃のこと。

うちのクラスには、外国籍のマイケルくんがいた。

お母さん(イギリス人)が声をかけたらしい、ちょうど同じマンションにクラスの子が何人かいたから、いっしょにハロウィンをすることになる。

お母さんが心配したのは、ハロウィン自体がまだそれほど普及?してなかったこと。
子どもだけで夜、歩いているのがまずいだろう、ということになり、3家族ほど、お父さんたちも協力した。

結局、父親たちも仮装(といっても妙な帽子をかぶる程度)、子どもたちもなんとなく仮装した風になり、マンションのあちこちをまわって菓子をせしめ、ずいぶんと楽しかったようだ。

マイケルくんが日記にその様子を書いていたので、わたしは興味を持ち、ずいぶんとそのことで彼と会話した。

彼は、今回の企画は大成功だったといい、パパもカエル男になって、自分も「撃たれた一つ目の男」になれたし、皆も菓子がもらえて、とても良かった、と胸をなでおろしていた。

彼の「撃たれた一つ目の男」というのは、そういうような帽子を彼は持っていたので、叔父さんか誰かのお土産でもらったものを、いつか使える日がくると信じて待っていた宝物だった由。

マイケルくんにとっては、そのグロテスクな帽子が本国にしかないとても貴重なものであったらしく、自分のルーツを語る上で重要なアイテムでもあり、友達が家に遊びに来ると必ずその帽子をかぶって披露したそうである。

マイケルくんはとても冷静に日本のハロウィンを分析していて、

「日本のハロウィンは可愛い」

と言っていた。

わたしはこれが気に入って、休み時間になると、しばらくこの話題で彼と盛り上がっていた。
マイケルくんは成長が早いのか、まわりの日本人の子と比べると背が頭一つ分高く、体格もずいぶんしっかりしていた。その彼がいうには、本国の蝙蝠(コウモリ)は、もっと怖いそうで、蜘蛛(くも)もまた、魑魅魍魎といった風でとても不気味なデザインであるそうだ。ところが日本のハロウィンは完全に和風であり、コウモリも蜘蛛もかわいい目がついて、まるでお子ちゃまレベルであるらしい。

わたしはたまたま持っていた水木しげるのお化け図鑑を見せて、日本のお化けはこのような風だ、ということを説明した。
マイケルくんは長く日本で育った子なので、当然のように「ゲゲゲの鬼太郎」も知っており、

「ああ、水木しげるか」

と大人のようなニヒルな笑いを浮かべながら鬼太郎の本を手に取ると、

「こんなのはない」

ちょっと困惑したような瞳で、わたしに指して示したのが、「ぬりかべ」でありました。

彼のお気に入りのキャラは、ミイラ男だ。

ミイラ男は歴史的に見ても定番で、お化けで打線を組ませるとしたら3番打者くらいの実力があるが、ぬりかべや一反木綿のようなものは、どうみても7番以後がいいところ、本国のチームであればベンチ入りさえもむずかしい、というような話をした。

「だいたい、イッタンモメンは布に目があるところからして、え、それだけ、という感じ。ミイラ男はそれがぐるぐる巻きついていて、男はミイラだし、何千年も前に置き去りにされ、地下に埋められた怨念がある。ただの布じゃあ・・・」


彼は片頬を少し緩ませて鼻で笑い、イッタンモメンを指すと、

「これじゃあ、ちっともこわくない」



わたしはそもそも、日本のお化けは別に怖くないのだ、という話をした。

牡丹灯籠も四谷怪談も番町皿屋敷も、みんな故(ゆえ)あっての「やむにやまれぬ怨みごと」である。

同情を誘い、そりゃ、登場するときの音楽や、恨めしい、というセリフは怖いし鬼気迫るものがあるけれど、故のあることであれば、話を聞いた人もみんな、お菊に同情してきたのが日本の怪談なのである。

また、魑魅魍魎には地獄の思想が背後にあって、そこに閻魔大王という完全にできあがったキャラクターがいるので、ミイラ男もドラキュラもゾンビも宇宙人も、日本に来たらかすんでしまうのは無理のないことなのだ。

閻魔様の話をすると、通学路に閻魔堂があるからマイケルくんはそれをしっていて、

「閻魔はぜんぜん怖くない」

と言った。

たしかに、学区の途中にある、その閻魔堂には木彫りの閻魔様が安置されていて、その顔はいくらかいかめしいものの、実はそれほど怖くなく、どこか、そのへんにいるおじさん風に見える。

「たしかに。あれは怖くないな。本当は怖いはずだけどね」

わたしは苦し紛れに閻魔の擁護をしなければならなかった。


マイケルくんは、

「結局、日本のキャラはどれも怖くない」

と、半分馬鹿にしたように言い、わたしは苦し紛れに

「日本人は鬼太郎のお父さんが好きなんだ。あのくらいがちょうどいい」

といって、マイケルくんとその後も水木しげるの本をいくつかいっしょに読んだ。




マイケルくんはその後、工業高校に進んだ。

きっと、日本のハロウィンを馬鹿にしつつも、今頃高校の文化祭で、本国流の素敵なハロウィンをみんなに披露しているだろう。撃たれた一つ目の帽子かなにかをかぶって―――。

ミイラ男?

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