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これは、わたしの学級の話ではないのですが、まあ聞いてください。


ミミズに興味を持った子がいました。

このうようよしたものが、土の中にゴマンといることが、どうにも不思議!
おまけに、どこの土をほってもミミズは出てくる、顔を出す。
弱そうで、すぐに土に潜ろうとするだけの、なんだか妙な生き物。

彼は次第に、ここにもいるかしらん、ここにはどうかしら、というように、スコップ片手にあちこちほじくり始めるようになった。

もとより、「地球上のどこの土にもミミズはいるのだろうか」という巨大な疑問を確かめるために始めたわけですが、目線は完全に、「いるはず、ぜったいいるはず!」として探すから、よく見つけるのなんの。

ここにも、ほら、あそこにも、という具合。

お母さんから、連絡帳で1ページびっしりと相談が書き込まれる。

「うちの子は、まるで、みみずに取りつかれたようで・・・。困っています」



家の前の庭はもちろん、爺ちゃんのうちの畑をそこら中ほり返し、さらには学校にもマイスコップ持参という勢い。教室の前も運動場も、校庭の片隅まで、掘ってほってほりまくる。


するとね、その

熱の入れ具合、魂の打ち込みよう

に、反応する子が出るのね。

その子は、なんでSくんがそこまで打ち込めるのか、不思議でならない。

だって、みみずですよ?

打ち込む対象が、ミミズだってのが、納得いかない。

「自分は、彼のように打ち込めるものがあるのかな・・・」

と、Sくんと自分を比較して、彼のように熱中できない自分を卑下するようになる。

・・・


Sくんがうらやましくてならない。

熱に浮かされたようになって、ドッジボールもサッカーもやらず、寸暇を惜しんで、あたかも恋人に会いに行くかのように、校庭へすっ飛んで行くのが、もう

うらやましいというか、嫉妬するというか・・・。





ミミズに嫉妬する、クラスメートが出てくる。

妬(や)いちゃうわけね。



Sくんを、ミミズから、取り戻したい。





そこで、ちょっと変化球がかかります。

「Sくんって、ミミズばっか追いかけてるよ。変人だ!」

と言い始めますね。
そういったことを拡大PRして、彼が得るものはないのですが、それを懸命に言いふらす。
別に、Sくんがだれかに迷惑をかけているわけでもないのに、嫉妬心から、Sくんを奇人扱いにする。


すると、どうも雲行きが怪しくなってきた、というのでSくんも悩みますね。

Sくんは、ミミズを飼育することにした。

教室に、昆虫飼育ケースを設置し、ミミズをたくさん入れた。
皆に見てもらおう、ということです。

「ほら、こんなにオモロイから」



しかし、これが、炎上!

「ミミズ男!」
「きたない、さわるな!」
「ミミズばっかり触っているよ。ミミズマンだ」


ここでブチ切れてしまったSくんは、ミミズをつかんで、クラスメートに向かって投げつけてしまいます。

決定的にまずい事件になってしまいました!



学級担任のもとへ、苦情の嵐が寄せられます。

「ミミズを教室に持ち込み、個人的な興味で飼っている子がいるのはなぜなのですか?」
「ミミズを投げる子にどのような指導をしているのですか?」
「ミミズを投げられたことがショックで、うちの子はもう教室に入れません」
「娘がこの教室で、もう給食は食べられない、と言っています」





担任は、

Sくんの興味関心に、付き合わない。

ミミズに興味を持てるように、他の子に資料を提示していかない。

Sくんが好奇心を燃やしていることの価値を、他の子に向かって話さない。

Sくんが奇人扱いされた時点で、「奇人だ」とみる観方そのものについて、話し合いしない。



親は、ミミズを持ち込もうとした子のことを知ろうとしない。

ミミズを投げつける前に、どんなことがあったのか、尋ねようとしない。

ミミズに興味を持つ子が、教室でどんな扱いを受けていたのかについて、関心を向けない。

とんぼ