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「いいな、大人はお酒を呑めて!」
                             
このセリフのあと、つづきがあるのです。
なんだと思います?
                            
「いやなこと、忘れられるんでしょう」

・・・

休み時間、ひまな子が教室の前に集まってきて、おしゃべりをする。
そこにストーブがあるからで、私は次の時間の授業の準備をしたり、プリントのマルつけをしたり、している。

すると、バレンタインデーでチョコレートをどうするこうする、と話が出た。

「中には、ブランデー入りのお酒が入ったのが売ってるから注意してな」

とつい余計なことを言ったら、冒頭のセリフがあった、というわけ。

「うち、お正月に、ちょっとだけ飲んだよ」
「えっ?」
「しょうちゅう飲んだよ」
「へー」
「うえって吐きそうになった」


そこからひとしきり、酒はなんのために飲むか、という話題になる。


「そうねえ。なんだろう。大人には美味いからかなあ」

「ちがうよ。まずいもん。飲んだけど」
「大人はいろいろ大変だから、飲んで忘れないと寝られないって言ってたよ」



子どもたちの結論は、きっとなにか、忘れたいことがあるんだろう、という、なかば同情、憐れみを帯びた結論でありました。

その一方で、自分たち子どもも、いやなことがあったら、ジュースで忘れられたら最高だ、ということになった。




へー、子どもでもいやなこと、忘れたいこと、あるんか、と思う。

いやなこと、きらいなこと、不安なこと。人間は相当、これらのもの、もてあましているのだろう。

そのほとんどは、人間関係のことじゃないかな。

あの人から、悪く思われた、悪く言われた、ダメだと言われた、馬鹿にされた・・・。


ところが、人間は、

Aのものが、Aに見えたり、Aに見えたり、Aに見えたりする。


AをAと見る人は、ほとんどいない。

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