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クラス会議が絶好調だ。

今の勤務校では、こんなスケジュールになっている。
【4時間目】⇒【給食】⇒【お昼休み】⇒【そうじ】

給食が終わると、たちまちみんな、サッカーボールをもって外に出ていく。
そして、そのあとの【そうじ】の時間になると、机を動かして、教室を掃除する。

ところが、問題なのは、掃除の時間が短いことだ。
掃除の時間になってからだと、当番だけで、クラス全員分の机を動かさなければならない。とても大変だ。
だから、あらかじめ、各自で机を先に動かしておく。
どこのクラスも給食が終わると、自分で自分の机を動かし、次の掃除時間にスムーズにぞうきんがけができるようにするのだ。


このあたりの動きが、子どもたちにも分かっているのだが・・・
ともすると、サッカーのことで頭がいっぱいになり、男子の一部は、机を動かすのを忘れてしまう。
だから、【そうじ】の時間になると・・・

女子の声が、教室中に響く!


「ちょっと!男子!!」

サッカーでご機嫌になって帰ってくる男子に対して、女子からのお小言が!

「男子の机、動かしてないが!!」

男子は、ちょっと口を尖らしながら、机を動かすことになる。


このことが、クラス会議で話題になった。

「机を動かさない人がいて、当番がやることになって大変なので、困っています」


みんな、身に覚えがあるので、話し合いすることになった。

さて、どうするか・・・。



みんなであれこれ、いい考えを出そうとして、全員が円になり、2周ほど意見を回した。

出てきたのは、恰幅の良いひょうきんもの、Mくんの意見だ。

Mくんは、ひょうきんで明るい一面が目立つ一方、どことなく「裸の大将」的な人生の悲哀をにじませる、味わいの深いキャラをもっている。

「机を動かさない人は、給食のお替わりなし、にするといいと思います」

ところが、この意見は、

「もともとおかわりをしない、という人もいるから」

効き目がないんじゃないか、ということで、変更を迫られた。

Mくんは意見を変えて、次のように言いなおした。

「机を動かさないなら、宿題を増やして、漢字の勉強をするといいと思います」

私は、できるだけ身を小さくして、目だけを見開いて、子どもたちの会議の様子を見守っている。

先生はほぼ、何も言わないことが分かっているから、子どもたちは、ルールだけを頼りに、自分たちで会議を進める。

私が介入するのは、ルールが不明瞭になってきたときだけだ。
ルールを、再度、明確にするジャッジは、私がつかさどる。
そのことにより、子どもたちの安心感が増すからだ。

さて、罰則を決めて、机を動かさない怠惰な男子を厳しく律しよう、という意見に対して、男子も賛成をした。

私は非常に驚いた。
まさか、自分たちに対して、罰を与えるとは。
ところが、その後、やはりそうなるのだな・・・、とも思い直した。
罰則で自分たちを律しようというのは、社会全体がそうだからだし、1年生の頃から、あるいは幼稚園や保育園のころから、心や脳内に刷り込まれたやり方なのだ。

いわば、いちばん、馴染んでいる。

逆に、こういう、罰則で自分たちの行動を改めさせる、という方法、それ以外の「なにか」方法を、他に持たないからなのだろう。
バリエーションが貧弱すぎる。
こういう場合の、「よい考え」というのは、ほとんど他に思いつかないらしい。

そして、話はどんどんと、ずれていく。

話の核心は、机を動かすのが遅れると、掃除の時間が足りないから間に合わなくなる、ということである。
あるいは、机を動かすのを忘れてしまう子がいるのでどうするか、ということなのに・・・

静かに聞いていると、話の中身は、どんな罰がよいか、という内容に変化してきた。

「漢字1ページだと足りない。2ページなれば効き目が増すだろう」
「漢字は得意だからいいや、と思う人がいるかもしれない。そういう場合は算数を」
「いーや、効き目で考えれば、宿題にしないで、それこそ休み時間中に漢字の書き取りをさせればどうか」



ところが、全員一致しないので、この問題は、先送りになりました。
つまり、異議を唱えた子がいたのです。
勇気を出して、声をあげたのは、身体の一番小さな、まだ幼さの残る、Yさんでありました。

Yさんだけが、はっきりと、

「罰で直そうとしているけど、意味ない」

と言ったのです。


そして、

「全員が机を動かせたら、動かせた日を数えていって、たとえば1か月、ずっとできたらなにかいいことができる、というようなのがいい」

つまり、減点と罰則による締め付け法ではなく、加点とご褒美による褒め育て法にしよう、というわけ。


話はまだこれからなのですが、最後に、裸の大将のMくんが、


「要するに、おれが机のこと、忘れそうでサ・・・自信がないんだよねー。で、この間の漢字テストが悪かったから、おれにとってはさ、たとえ机動かすのを忘れても、その後で漢字が勉強できて、一石二鳥かなって・・・」


みたいなことを口走ったので、

えーーーー!!


と女子のほとんどがガヤガヤ言い始め、チャイムが鳴り・・・


さ、続きはまた来週です。



↓写真は、夜、テントにおとずれた蛾の顔。
夜、おとずれた蛾の顔