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昆虫合宿、というものがある。

昆虫クラブ世話人のSさんに、それはいったい何ですか?と聞くと、

「えっと、・・・・蛾を肴(さかな)に酒を飲むのです」

遠慮がちに教えてくれた。

「え?ガって、あの蛾ですよね」

わたしは、一瞬、ドキッとする。

「・・・蛾が、肴(つまみ)になるんですか?」

「あ、え、えっと・・・。あ、食べるんじゃないですよ。見るだけです」




びっくりした。

べつに、「昆虫食」をするのではないらしい。

ただ、やはり、

「蛾を見ながら、酒を酌み交わす」

というだけでも、ちょっと変人っぽい。



さて、Sさんには、悩みがある。

このところ、苦情が多くて、なかなかそういうことをさせてくれるキャンプ場が無いらしい。

かつて、とあるオートキャンプ場で「昆虫合宿」をした。

なるたけ遠慮をして、すみっこの方で、多くの人とは別の方向を向いてテントを設置していたのにも関わらず、通報されたそうだ。

「あやしい人物が、夜になって懐中電灯を照らし、うろつきまわっている」


たしかに、夜になって昆虫をさがしていたら、通報される。

キャンプ場だと、懐中電灯でそこらじゅうを照らすのは、はばかられる。

それで、何年か前から、いわゆるキャンプ場でなく、青少年の家のようなしっかりとした建物のある場所にした。

テントで寝る人はいないので、大丈夫。
みなさん宿舎の中でお休みされるから、こちらは気兼ねなく昆虫をさがせる、というわけだ。

ところが、また苦情が入った。

「あやしい人物が、気持ち悪い白い布をひらひらさせながら、人を脅かそうとしてうろつきまわっていた」


昆虫を集めるための白シーツ。
広げて枝にかけ、ライトで照らし、カブトムシやクワガタ、蛾やカナブンを集めていたのだ。

虫好きだったら、当然ピンとくる、いわゆる「ライトトラップ」である。

白いシーツをもって歩いているだけでも、十分に怪しく見えるのでしょうなあ。

そこに懐中電灯のライトの光を当てて、なにやら人影がゆらゆらと揺らめいているのを見たら、知らない人は恐怖を感じるんだろうね。



そこで、次の年は、本当に建物から離れた場所まで、苦労して移動することにした。
ライトをタオルで包み、わずかな光をたよりに苦労して苦労して、宿舎から離れ、ようやく明かりを灯して、ライトトラップを仕掛けたところ、わんさか虫が集まって、マニアたちは大喜び。
数秒ごとに新しい蛾を発見しては、

「おおっ!!今度はでっかいスズメ蛾が来た!」

とコーフンして大騒ぎをしていたところ・・・



またもや通報された。



「森の奥で、大勢でライトを照らし、怪しいお祭りのようなことをしている」



昆虫合宿のSさんが、現れた警察官に、

「我々は昆虫を見ていました」

と言ったところ、まったく信じてもらえなかったとのこと。



「昆虫の保護団体だ、ということや、昆虫学会のえらい人の名前を出して、連絡先も名刺もすべて出しても、信じてもらえず、おまわりさんにさんざん謝って、すぐに撤退しました」




「そのおまわりさん、ライトトラップのこと、知らなかったのでしょうかね」

「そうなんですよ。シーツに虫がついているのを見せて、これがトラップだって説明しているのに、なにもピンとこないんです、そのおまわりさん」


昆虫リテラシーの低さ。
警察官のレベルを物語る。


すべての警官に、

○少年時代、虫をとらえて遊んだ経験があるかどうか
○知っている昆虫の名前を10言えるかどうか


警官の採用試験に、取り入れてほしい。


Sさんは、

「奇異な目で見られるのは慣れてますけど、奇異でもゆるされる社会がいいですねえ。奇異だと、攻撃の対象になるんですから、日本という国は、虫屋にとってはツライ社会です」


奇異な目で見る、ということ。
奇異だ、と、とらえる。
最初から、奇異なもの、を、探してる。

安心したい、の、裏返しかな。

奇異なものを攻撃すると、なぜか、ちょっと、スッとするからね。

一種の清涼感というのか・・・。

似非の安心感?病的やね。

本当に安心できる心の状態とは、全く違う。

写真は、オニヤンマのやご。↓↓

おにやんまのやご