けんか。
Aくん、Bくんを蹴る。

蹴った方のAくんが泣き顔になり、

「だってBくんが、しつこく言ってくるんだ」


・・・とのこと。

今度は、おしりを蹴られた方のBくんが、ふてくされた顔で説明します。

「だって、Aくんが、おれのカード、返してくれないんだ!」

Bくんは、自分のおしりを痛そうにさすりながら、言っています。

あれあれ、穏やかじゃないですなあ。


こんなとき、怒らなきゃ!と思う先生は、たいへんです。

おそらく、頭から湯気を出すか、声をふりしぼって、なにか叱るんでしょう。

わたしはまったく、怒ったり叱ったり、しません。
その必要性を感じない。




Bくんが、自作のバケモンカードをAくんに渡したところ、Aくんが返さないそうです。

BくんはAくんに、何度も

「返して、返して、おれのバケモンカード、返して」

と言っているのに、Aくんは、なにかと理由を言って、返さないそうです。

バケモンカードは、ポケモンカードに似せて、自分が創作したオリジナルのモンスターを書いた、ユニークな自作カードであります。
なかには傑作や力作があり、男子の中ではとても意味のあるカードで、プレミアの価値もある。
なんてったって、世界にただ一つのモンスターであり、カードなんですからね。
自分が鉛筆で、熱意と念を込めて、仕上げてきた、宝物のカードなんですもん。


そのカードを、返さないんだって!


さっそく、楽しくクラス会議です。

これも、わざと、わたしは知らんふりで、

「おー、なんだか穏やかじゃないな~」

と言うばかりですが、そんな呑気な先生を見て、クラスの子どもたちのほうから、

「先生!クラス会議しよう!」

と提案してきます。(いつもそうだけど)



わたしはわざと

「え、なんで」

と、とぼけていますと、

「クラスの幸福のためにも!」


と、ニヤニヤしながら、女子も男子も、クラス会議を心待ちにしている模様。

まあ、クラス会議をやれば、解決することも分かっているし、楽しくなるし、幸せになることが、実感されているのでしょう。



「うーん、算数もあるし・・・」

「もう先生!学級目標が揺らぐ瞬間でしょうッ!!なにをおいても、やりましょうッ!!」




結局、わたしは、最初に方向づけだけしておくと、あとは勝手に子どもたちが話し合い、30分後には見事に当人同士が抱き合っております。そして、目をキラキラさせながら、

「先生、仲直りしたっ!!」



わたしゃ、本当に、人間ってすげえなあ、と思うのだ。



まだ子どもたちの中には、

「○○くんが悪いので、謝ればいいと思う」

というようなことを言い出す子がいるので、そうならないように、極力、方向をきちんと、直してあげます。

まあ、そういった雰囲気の、「エセ解決」を、これまでの小学校生活、ずっとやってきたのだから、仕方ない。

わたしは、そういう意見にはちっとも関心を示さないから、なんだか子どもたちも、最初は違和感があったみたい。

「あれ、なんで、先生、なにも言わないんだろ?(いいこと、言ったはずなのになー)」





わたしが取り上げて反応するのは、

「本当は○○したいと思ってた」
「本当は○○しようと思って」


ということだけです。

おお、○○くんは、そう言いたい気持ちだったのか~!
なるほど、○○くんは、そうしたい、と思ってたのね~。


あとは、セリフの言い換えを手伝う。

「Aくんが、ちょっと待って、ばかり言って、ちっとも持ってこないんだ」

と子どもが言ったら、

「ああそう。Bくんは、早く持ってきてほしかったのね」

と、言い換えてあげます。

「そう。でも持ってきてくれないから、すごいいやになる」

「なるほど、心配とか、不安な気持ちになると。だからどうしてほしかったの?」

「いつ持ってくる、とか、日にちとか曜日とか、予定を言ってほしかった」

「そうか、不安になるから、いつ持ってくるかの目安を言ってほしかったと」

こういう具合に、子どもの台詞を繰り返しながら、願いを簡潔にまとめ、Aくんへの願いを言えるように、仕向けていきます。

最後に、

「なるほど~、Bくんからしたら、Aくんに早く持ってきてほしかったんだね。それが、ちょっと待って、といわれてばかりだから、心配になってきたんだね。じゃ、『ねえAくん、おれ、早く返してほしいとばかり思ってるんだよね。だから、そうやってちょっと待って、って言われると、本当に返してくれるんかな、と不安になるんだよね。だから、いつ頃になりそうだから、それまで待っててね、とか、はっきりいつまで、という期限を言ってほしいんだけど』って、いうことだよね」

「そう」

「じゃ、それ、言ってみることできる?」

「うん。Aくん、おれ、いつ返してもらえるか心配だから・・・(後略)」






こんなことをしているうちに、

バケモンカードを、自宅にあるラミネートの機械で立派にラミネートして、Bくんを喜ばせてやりたかった、というAくんの本音が見えてくる。

ところがAくんは、いつも家に帰るとラミネートのことを忘れてしまい、どうしても持ってこられない。
自分でも、早くせねば、と思うが、家に帰るとやっぱり忘れてしまう。
学校でBくんの顔を見るたびに、「しまった!」と、自分を責めつつも、なぜか、うまくいかない。

なんとかBくんに

「ほら、ラミネートしてあげたぜ」
「わお!Aくん、ありがとう~!やった~!」


という具合に、喜んでもらいたい、という気持ちと、自分の忘れっぽさとふがいなさの間の、まるで板挟みのような感覚に苦しんでいたのでしょう。


そんなことが明らかになってきて、

「今日は、忘れないように、手首のところにマジックで書いて、ぜったいに忘れないように、今朝はラミネートの機械を兄ちゃんに頼んで、机の上に用意してもらってきた。だから、今日はぜったいにやれると思う。だけど、Bくんはすごく責めてきたから、ないしょでラミネートしてあげたかったけど、できなくて、いやだった」

そういうAくんが、大粒の涙をこぼしはじめますと、

クラスの雰囲気は・・・・

女子も男子も・・・







それでも、いまだに
「そういうAくんの気持ちを分かってあげないBくんが、本当は悪い」
と言い出す子もいるのですが、それは軽くスルーし、

「自分の気持ちが、通じないので、苦しかったんだ」
「はっきり言いたかったけど、ないしょで驚かせたくて、うまくいかなかったんだね」
「自分の言いたいことを、うまく伝えられずにいて、誰かに相談する勇気も足りなかった」


というような、クラスの他の仲間の意見を聞きつつ、

当人どうしに、

「で、今、どうしていきたいの」


と聞いてくれる賢い女子がいて、本当に助かります。




で、結局、

「先生!!!もう、ぼくら、仲直りしたから!!」

と、給食のあと、勇んで校庭に飛び出していくお二人さん。


仲直り