クエートという国から、一通のハガキが届いた。
表には何やら原色の派手な、クエートの町並みの写真が載っている。
はて、オレはこんな国と関係があったかしらん、と不思議な思いで裏をひっくり返してみると、そこには、なつかしい高校時代の友人の筆記が見つかったのだった。
友人は、最近ツアーコンダクターの商売をはじめたので、このところ頻繁に、日本と外国を行ったりきたりしているのだという。
「外国人の観光客が相手だから、道中はぜんぶ英語なんよ。大変じゃ」
と書いてある。
それをよんで、なんだかとても可笑しくなった。
彼は、高校時代、お世辞にもあまり成績のよい方ではなかったからだ。どちらかというと、そういった学校の勉強よりも、世間の人間の営みに興味を持ち、たくさんの本を読む読書家であった。
友人が活躍するのを知るのは、なんだか妙に面白いものである。
ことに、その昔、いっしょにいる頃には、なんとも頼りなくみえた友人が、いっぱしの格好をして活躍しているのだと思うと、
「うーん、・・・あいつがねえ・・・」
と、心配に似た気持ちが出てくる一方、誇らしい気分にもなる。
ツアーコンダクターをしている以前は、運輸会社に勤務していた。
どうも、あちこちに移動するのが得意なようである。
「オレさ、前世は騎馬民族だったと思うよ」
「なんで」
「定住するのが、なんかこう、肌に合わんからよ」
こうみてみると、学生時代の友人たちは、大体、自分自身のことをよく知っているのか、端から見ていても間違いのない、非常に適した進路を選んでいるようだ。
学生のときには、
「将来、何しようかなあ」
と真剣に悩んだものだが、あるいはそこで悩んでおいたおかげなのか、今となってみると、ぴったりの配役についているのが、なんとも面白く思われる。
レターボックスをひっくりかえしてみると、かつての学生時代の友人たちが、本当にさまざま、ヒトそれぞれの職業に就いているのがわかって、面白い。
「宮崎はとってもいいところ。毎日、おばあちゃんとデートだよん」
という、謎めいたハガキをよこしたのがある。
これは、宮崎の病院へ赴任した医者の友人の年賀状だ。
「先週帰国しました。帰国後、どうなるかと思っていた仕事ですが、無事に通訳の仕事ができそうです。また、タイにも行きます。あの国、気に入った!」
2年間、青年海外協力隊員としてタイで日本語教師をしていた友人の、帰国後の書状。タイを気にいる人は、多いみたいだ。
続けて、
「のんびりした人が多いな。オレも時間にはルーズだから、気質が合っているんだろう」
と書いている。
転職した男。
「今度、富士通に勤めることになりました。パソコン買うなら富士通にしてください」
と、ちゃっかり宣伝している。
同様に、
「ちゃんと、年金支払うように。税金もなるたけ多く支払うように!」
という、まあ半分冗談の文書もある。役人からの年賀状である。
大体、同年代の男から届く年賀状は、忙しいからなのか、ずいぶん簡略であるのが多い。また、その内容も、自分の就職した会社の業務をPRするものが多いようだ。まあ、お互いにしゃれのつもりでやり取りをしているのだから、これでいいのだ。
この年齢にもなると、子どもをつくって家族を形成する友人も多く、年賀状や暑中見舞いに、赤ん坊の写真をカラーで載っけて、いかにも嬉しくてたまらぬ、という風なのもいる。
まあ、率直に言って、そんなに美男子とも思えない写真に対して、
「きみの子にしては、なかなか整った顔立ちで・・・」
などと冗談交じりにメールで返事を書いてやると、
「いやあ、あんがと、あんがと」
と、なんだかやっぱり嬉しいらしく、それ以来、毎年のように息子の写真を送ってくる。
近所の商店街に、クリスマスソングが流れ始めた。
いよいよ、年末のうきうきするような感覚が訪れようとしている。
今年の年賀状には、どんなことを書いてみようか、何だか楽しみだ。
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