電話の主は、かつて世話になっていた、元上司のSさんだった。

「どう?元気でやってる?」

相変わらずの早口で、こちらの様子を心配してくれる。ありがたかった。
おまけに、ハナシの中身も、ありがたいことだった。
Sさんは最近、旧友と会う機会があった。その相手が人を探している、というのだ。
「30歳くらいで、コンピューターのことが分かる人っていうんだよね」

Sさんは、ありがたいことに私を思い出してくれたらしい。
私はほとんどコンピューターは素人だったが、前職場では予算がないため他の人をたのめず、コンピューターもシステムも、自分がなんとかしなくてはならなかった。四苦八苦しながら一応の処置をしていた私のことを、推薦してくれたのだ。

ハナシはとんとん拍子に進んだ。
紹介してくださった方と、M市の喫茶店で話した。
真っ黒な、エスプレッソ珈琲。ほとんど飲まないで話した。

仕事の内容を聞いてみると、なんだか難しいようだ。
「でも、大丈夫だと思うよ。勉強したらすぐ覚えられるから」
いろいろとハナシをきくうちに、心が動き始めた。

何よりも、職場が近くなること、そして土日が必ず休める、ということ。それに給与面も良くなる。
職場は家から歩いていける距離。
おまけに嫁さんの通う短大のすぐ近く。

「すごいじゃん!いっしょにお昼のお弁当が食べられるかもよ」

その夜、嫁さんの一言で、転職が決まった。

あいつぐ転職で、めまぐるしかったが、決心した。
何よりも、これで土日は確実に休める。
スクーリングをこなしていくことができる。
これがおぼつかなければ、4年間で免許を取得し、卒業する計画がアブナいのだ。

コールセンターの方も後から後から求人応募がくるらしく、わりとあっさりと、辞めるのを承諾してくれた。

(つづく)