30代転職組・新間草海先生の『叱らないでもいいですか』

We are the 99%。転職を繰り返し、漂流する人生からつかんだ「天職」と「困らない」生き方。
高卒資格のまま愛知の小学校教員になった筆者のスナイパー的学校日記。
『叱らない で、子どもに伝え、通じ合う、子育て』を標榜し、一人の人間として「素(す)」にもどり、素でいられる大人たちと共に、ありのままでいられる子どもたちを育てたいと願っています。
生活の中の、ほんのちょっとした入り口を見つけだし、そして、そこから、決して見失うことのない、本当に願っている社会をつくりだそう、とするものです。
新間草海(あらまそうかい)

2008年04月

空き時間がある、ということの幸福




昨年は空き時間がなかった。
つまり、専科がなかった。
だから、全教科、自分でやった。


おそらく、これがふつうなんだろう・・・、と、思っていた。

しかし、今年、なんと、書写の時間と社会の時間を、他の先生がやってくださる。
つまり、専科として、受け持っていただくことになった。

これはすごい。
なんと、週に、3~4コマ、空き時間ができた。

最初、昼間に教室にいない、ということが、不安にさえ感じた。
だって、自分の担任する子どもたちが、教室にいるのに。
私は職員室にいてよいのだろうか。
あまつさえ、なんと教頭先生が、お茶まですすめてくれる!!


「いやあ、空き時間って、不思議な感覚になりますね」
といったら、
「そう?」
と教頭。



空き時間に、いろいろなことがやれる。
すごい!
昼間の45分は、なんて濃密なんだろう!
昨日の夜、ちくしょう!やっておけばよかった!と感じたことがあったのに、
今、それができてしまうのだ!
朝回収した、日記のチェックや、なんとコメント書きまで、できてしまった!!!!!
すごすぎる・・・・!!


昨年は26コマ+1(委員会やクラブ活動)ですごしたのに、
今年は24コマ+1、でよいのだ。

昨年と比べて、なんと楽になったことか!!!




本当かどうか、本当はどうか




教えたいことがある。
学ばせたいことがある。

この2つ、なにか、温度差がある。


教科書に、○○、と書いてある。
ほんとうかな?
本当かどうか、しらべてみよう。


この場合は、本当か、どうか、だ。



アブラナを観察する。
本当か、どうか、ではない。
本当は、どうか。だ。


事実だけがある。
事実をみていく。
事実をみる子に育てていく。

正しい知識を持つ子を育てるか、

それとも、事実をしらべ、明らかになったことを知る子を育てるか。




この二つにも、
なにか、温度差がある。




アブラナの観察




アブラナの観察。

おしべ、めしべ、花の様子をじっくりと観察させる。
無言の時間がなくてはうそだ。
本当はどうなっているか、いくつ、発見できるか。
本気になったら、おしゃべりなど起こらないのが本当。

おしべ、めしべ、という言葉すら、不要だ。
「この長いのはなんだろう」
この言葉から、スタートさせたい。
「それには名前があるよ、めしべ、というよ」


実は、どこにできるか。

めしべにできる、という。
チャレンジでやった、という。
へえ、と軽く流しておく。

×「今はみる時間です。すぐに答えないで、よく見なさい!」
○「本当はどうか、自分で見れたらいいなあ」(ニコニコ)

「この、長い棒みたいなの、なにかな?」

×「それがめしべだよ」
○「あ、よく気がつくなあ、じっくり見る力があるなあ。なにかな?とハテナマークが出てくるのは、レベルが高いなあ」

なかなか書かない子、書けない子に。

×「これを書かなきゃ、ダメだよ。よく見なくてはいけないよ」
○「これが書けるといいなあ」




なんですぐ、命令口調になるんだろう?




図工の教材




図工の授業について、本当に困っている。

教科書に、絵の具遊び、というべき題材が載っている。

しかし、これを、本当に子どもがやりたがるのか、まったく自信がない。

というよりも、「なんでこんなのやるの?」といわれてしまうだろう、と不安がつのる。

現代アート風な、絵の具の、技法をつかった遊びだ。

なにか、じっくりと、題材に向き合った、という感じは

おそらくないだろう。

これ、ほんとうにやるのかなあ・・・


そう思うと、とても憂鬱。

しかし、ほかに、これ、という案もなく・・・・

というより、学年主任と話し合うにも、ネタがなく・・・

うーむ。


(あとからこの記事を見直してみて、こんな時期もあったなあ、と笑っていられるだろうか)




子どもはなかなか変わらない




昨年からの半分持ち上がり。
クラス半分は、すでに一年間の、人間関係の貯金がある。
だから、ちょっとした目くばせや、声の感じで、児童に伝わるものが大きい。

先生の言いたいことはこれか、と、すいすい動く感じがある。
まだ4月だというのに、言いたいことが、スッと伝わる。
前学年からのパターンで、子どもが慣れている。
楽だ。
なるほど、これが持ち上がりか・・・と思う。

しかし、それは、クラス全体ではない。
学級の半分の子には、まだ、そういったツーカーな関係がない。


前学年からみている子で、なかなか片付けのできない子がいる。
面倒くさいのが、なかなか変わらない。
昨年、一年間、いい続けたこともある。
でも、今更、あらためて驚いたのだが、ほとんど、変わっていないなあ、と思う。



いくら口うるさく言い続けても、何度言い含めても、強く言っても、しつこく言っても、やわらかく言っても・・・・

ときには、さんざんほめて、ほめたおすほどにほめて、本当にいい関係が続いているなあ、という時期に、改めて、先生の感じていることを伝えさせてもらうね、ということで、しずかに話したこともある。

次からは気をつける、と、本当に笑顔で言ってくれた。


でも、今の学年になってみて、変わっていない。

また、体育館シューズが、廊下に出しっぱなしである。
ぞうきんを、きちんとしぼっていない。
ランドセルが、棚から半分出ている。
ランドセルにぶら下げている防犯ブザーが、ひもごとのびて、だらしなく床上になげだされている。

机の中はぐちゃぐちゃである。
のりと、セロテープと、わけのわからない折り紙の・・・
整理整頓をしない。


子どもは、なかなか変わらないんだなあ、とあらためて、感じ入っている。


自分をふりかえれば、自分だって、そんなに変われないのだ。
大人だって、自分を変えることは、けっこうむずかしい。

子どもなら、それは、なおさら、ということだろう。




日記のメニュー





日記のメニュー

4月 わたしのことを知らせよう
・わたしのこと
・わたしの家族のおもしろいところ
・きょう学校で話をした子の名前(なにしてあそんだか)
・わたしのじまん(とくいなこと)
・今、こまっていること

5月 クラスの友だちをよく知ろう
・きょう、よく発表した子三人
・きょう、よくみんなを笑わせた子一人
・本読みのうまい子三人
・声の大きい子三人
・遊ぶ時間、外でよく遊ぶ子三人
・じてんをよく引く子三人

6月 クラスの仲間のよいところ探し
・○○名人を発見!?(遊び編)
・○○さんの、すてきなところ
・わたしの近ごろのワクワク楽しみ
・学校の行き帰りで見つけたこと

7月 一学期をふりかえる
・一学期の思い出ベスト1
・一学期のおもしろ授業ベスト1
・一学期よく遊んだ子三人
・○○先生のすきなところ
・○○先生ののなおしてほしいところ
・一学期、わたしのがんばったこと


こんなことみちゃった!
こんなこと聞いちゃった!
こんなことしちゃった!
こんなこと考えちゃった!

こんなふうだったらいいなあ・・・ウソ日記

わたしの一番好きな食べ物は(そのわけも)

うちの○○○のおもしろいところ

みなきゃソンだよ!このテレビ!(わけをくわしく)

わたしのおすすめの本

登場人物への手紙

○○さんへおたより

ていねいに視写

季節の言葉をみつけよう

もし・・・ならば・・・

・・・である、で書く日記。

・・・でございます、で書く日記。

○○○の作り方
○○○の飼い方
○○○の育て方
○○○の練習の仕方

きょうの○○先生の話

びっくりしたニュース

今日、いんしょうにのこった音

先生の口ぐせ

きょう一番長く話した人のこと

きょう話をした大人の人

何も見ずに書ける漢字十個

同じ部首の漢字十個
きへん
さんずい
ごんべん


ことば集め(気持ちや様子をあらわすことば)
(おしまいに「い」のつく言葉)

ことば集め(動作をあらわすことば)

しりとり

カタカナのことば集め

鳥の鳴き声十個以上

動物の鳴き声十個以上

好きな地図記号

わたしの家からみえるもの

きょうの買い物でわかったこと

家にあるいちばん古いもの

(つづく)




明日は授業参観と懇談会




明日は授業参観。

4月の参観は、国語。
ずっとそうしてきた。
なぜか。

音読で、みんなが参加できるから。



明日の組み立て。

スキル。3文字。
辞書引き。4語。(チェロ・名案・好物・銀河)
教科書。
「春(間所ひさこ)」の音読。
 追い読み
 一行交代読み。
 先生と
 男女
 反対
 第一連を一号車、第二連を二号車、第三連を三号車、第四連を全員で。(短く評定)
 好きな連を決める。(やさしい色にぬっていく、だけは全員)
 「せいのびすると」を練習する。
 「せいのびすると」の検定。
 
 時間があまれば、第一連を覚えて、暗唱してみる。
 

(以下は保護者会向け資料)

4年生はギャングエイジ。

・友達と遊ぶことに生きがいを感じるようになる。
・顔ぶれの決まった5~6人の友達と結束の強い集団を作る。
・親や教師の保護や干渉から逃れて、活発に遊ぶことに情熱を燃やす。
・その中で社会的なルールや人間関係のとり方、責任を果たすことや協力することの大切さ、思いやりの心や我慢する力などを身につける。
・外で友達と元気に遊ぶ、ことが大切。

(1)学習塾やお稽古ごとを少し控え、友達と自由に遊ぶ時間を十分に保障してやること。
(2)普段から子どもが自分ですべきことに親が手を出したり、必要以上に物を与えたりしないこと。過保護では自主性や意欲が育たず、仲間に入れない子になってしまうため。
(3)よほどの危険性や道徳的な問題がないかぎり、子どもの友達を否定したり、遊び方に干渉したり、子ども同士のトラブルに口をはさんだりしないこと。




2次試験の当日エピソード




教員採用試験の2次試験を受験したときのこと。
そういえば、と・・・ふと、思い出したことがあるので、
できるかぎり、記憶に忠実に記すことにした。

以下・・・



昨年の夏、いよいよ2次試験を受験した。
6年越しの大計画が、いよいよ大詰めというわけだ。
緊張して、この日を迎えた。

私鉄沿線の、駅の近くの中学校で試験が行われた。
性格検査、模擬授業、個人面接、と多岐にわたる試験で
一日がかりの大仕事となった。

さて、最初のYGIP性格検査が終わり、休憩時間になった。
模擬授業の準備をする人が多く、机の上に道具や
プリントを広げて、みんな忙しそうにしていた。
いやがおうにも、試験本番!といった雰囲気が、
この部屋をつつみこんでいく。

さて、どうやって気分を落ち着かせようか・・・。

小生も、幾分、緊張がたかまってきた。
なにしろ、1時間後には、この部屋の中の受験生のほとんどが、
合否を決してしまうのだ。
それほど、模擬授業の、「合否結果」にしめる割合は高い。
1年がかり、あるいはそれ以上の
期間をかけて、この場にのぞんできた、その最後の
大舞台が、いよいよ始まるのだ。

落語の練習のように、あるいは舞台の練習のように、
声をはりあげて、授業の始まりをシュミレーションする者、
思い切り笑顔をつくって、
「はい、はじめまーす」
と、あいさつの練習をする者。

みな、それぞれである。
泣いても、笑っても、勝負の刻(とき)が、やってきたのだ。


「あと、10分か・・・」

小生、トイレにでも行ってこよう、と席を立ち、
用をすませた後、鏡の前で手を洗っていた。

ふと横を見ると、つい今しがた、
トイレにかけこんできた男がいる。

ずいぶん勢い込んで、肩で息をしている。

緊張がピークに達しているせいか、
顔面がのりで固めたようにこわばっている。
若い、目のくっきり大きなイケメンくんだ。

青白いイケメンの男が、トイレの鏡の前で、
呼吸を落ち着かせている。どうしたんだろうか。
気分でも悪いのかしらん、と思った。

のどぼとけをひくひく動かしながら、
う、う、と、うわずった声まで聞こえてくる。

横でハンカチで手をふきながら、心配になって様子を伺うと、
そいつはなんと、スーツ上着のウチポケットから、
ビニール袋を取り出した。

なんなのだ?と不思議に思って、
ハンカチで手をふくのも忘れて見とれていた。

ははあ、彼は良家のご子息で、ご丁寧に、手を拭くハンカチを
ビニール袋に入れているのかな、と思った。
(今思えば、そんなことあるわけないか)



しかし、ちがった。

なんと、彼がビニール袋から、

ふるえる手つきで取り出したのは、

カラカラに乾いた、干したぶどうの房(ふさ)、だったのだ!

茶色に枯れた茎の先っちょに、黒い実が、
5粒、6粒とついているのが目に入った。

泣きそうなほどに見ひらかれた、その大きな目をびくびくさせながら、
蛇口からの水を手のひらですくい、ごごぉーっとひと口すすると、

彼は意を決したように、そのプルーン>?のようなものを
つまんだ・・・。



その後、惜しいかな、混みあってきたので、小生あわてて
トイレを出たのだが、

目をとじ、天井にむかって口をひらく彼の表情が、
満足げにいやされていったのかを、さいごまで見届けられず
とても残念だった。

模擬授業を目前にして、用意してきた伝家の宝刀。
ここ一番の、勝負の木の実を、彼は

「い、い、・・・今だ!!」
と呑もうとしたのであろう。
「今のまずして、いつのむのか!!」
と決心して、彼は
トイレに駆けてきたのであろう。

一世一代の大舞台で、彼が自らの未来を託した、
ひとつぶの、プルーン(?)!!

彼の、無事の合格を祈る。

「イケメンに幸、あれ」


ところで、あと、書道の半紙をもって、
目を閉じてなにやらぶつぶつと、つぶやいていた人もいたな。


紙の上をよく見ると、
筆ペンでなにやら呪文みたいなのが、書きつらねてあった。
大統領の宣誓みたいに、手をひろげて。
ありゃ、何教か。

ともあれ、人生をかけているから。
みんな。


世の中には、いろんな気の落ち着かせ方があるのだった。




まだ教科書も




学級開きまであとわずか。
土日をはさんで、月曜日にはもう子どもたちと対面だ。
名前もしっかり覚えていない。どうしよう。

ところで、教科書もまだ見ていないことに気付いた。

相棒の若い学年主任も、体調が復活したようで、今日は学校に来てくれた。
昨日、つくりかけだった学年通信を、きちんと編集しなおして、印刷できた。

職員作業として、校内のワックスがけ。
入学式の準備。
1年生の入場曲をいろいろと考えた。
ドラえもんメドレー、というのが新しく購入してあったので、それを使うことにした。
視聴覚担当だから、自分ひとりで決めた。
1年生の担任の先生に確認すると、「OK」と一つ返事。

おそらく、なんでもいいんだろう。


「初任者だから、書いてもらうものが山ほどあるよ」

事務の方に、にこっと笑って言われる。

そのとおりだった。
ワックスがけが終わり、職員室に帰ってきておどろいた。

自分の机のほうをふと見ると、机の上に書類が山になっている。
提出期限は来週。
全部、しらべてこないとかけないことばかりだ。
似たようなものが多いが、どれもきちんとボールペンで書いていかねばならない。


教科書を見たいが、まだだいぶ、遠いことになりそうだ。

それにしても、明日、教室を片付けるの、できるのかなあ・・・。




初任者3日目




初任者の会をしてくれる、という。

昨年、一昨年、その前、というように、ここ3,4年ほどの間に入ってきた、若い教員たちだけで、いっしょに食事をしませんか、という。

若い人が多いが、私のように子持ちの30代後半でも、まぜてくれるらしい。
というより、私をだしにして、みんなでいっしょに呑みたいのだと思う。

そこで誘われるままに行くと、ま、ま、今日の主人ですから、ということで、一番真ん中の席に座らせられる。
和食の、気の利いた店。
店の入り口に、べんがら色ののれんがかかり、小粋な生け花がかざってあるのをみて、
「なかなか」
と思う。

いろいろ、話題が出た。
ここでは、おかまいなしに、
「ベテランズがさあ」
という話ができる。

○○先生の総合の授業を見たが、すごかった。
○○先生は、本当は専科希望だったらしい。
○○先生は、昔、こんなことをしていたようだ。

いろんな、見聞きしてきた話を、ここぞ、とばかりに。

誰かが得意分野について話すと、それ、こんど教えてください、とみんなで口々に言う。

すごいなあ・・・。
意欲満点だ。



ベテランズがいない場での話し合い。
たまには、こんな場があっていいな。

お互いに、なんとなくの共通感、一体感をもちつつ、解散。

ふんどし、しめなおす。(しめなおしてばかりだな)




初任者研修がスタート




初任者2日目。
さっそく、県の教育事務所でセミナーがある。
初任者としての心構えについて。
訓示が続く。

あとは初任者研修の年間スケジュール。
おおくの採用者がいるので、グループに分かれて自己紹介をした。
これから、お互いに研究発表をしあったり、レポートを書いたりなどしていくらしい。

みんな、若々しくて、いいなあ、と思う。
こっちは子持ちの、30代後半のおやじだ。
はじけるような、パワーの有る自己紹介が続いたあと、つかれきった私の自己紹介で、ちょっと申し訳ない。

ところが、身体の疲れが、かなりピーク。
正直、バス停で倒れそうだった。
ちょっとマジで、休んだほうがいいな、という感じだ。

ちっとも教室は片付いていないし、計画も立てられていない。
それなのに、すでに新学期準備に突入してしまっている。・・・。
おまけに、初任者研修がスタートした。
休んでなど、いられない。


床屋にしばらく行けなかったので、駅前の美容室にとっさに入った。
カット代が目の飛び出るような値段だったのが、あとでわかったが、今は時間を買うのだ、と言い聞かせて、そのまま切って貰った。

でないと、今週、どこにも時間の空きがない。
ぼさぼさの髪で、子どもと挨拶しなければならない。


土曜日になんとか教室を整えるとしても、日曜日は自治会の会合があり、年度始めの引継ぎだ。これがまた300世帯を超える巨大集合住宅だから、やることがたくさんある。副会長なんてやるんじゃなかった。ああ・・・。

しかし、それでもなんとかやれてしまうんだから、人間って、ちょっとやそっとでは倒れないんだなあ。




初任者1日目




初任者1日目。
市役所で、辞令交付の式があった。
この日のために、7年かけたのだ、ようやくたどりついた、という感慨が湧いてきた。

式では、教育長から辞令を手渡してもらう。
新校長と面会し、午後、共に学校へ。

途中、市役所前の桜が見えた。
ほぼ、満開だ。
めでたすぎて、華やか過ぎて、ちょっと恥ずかしい。


学校では、新校長を迎えるために、花道が用意されていた。
そこを、新校長が歩いていく。
待っていた職員がいっせいに拍手。
わたしは、その後をそっと追いかける。

すぐに職員室で、挨拶。
辞令を校長から、みなの前で再度渡してもらった。転任していらした方たちも、同様だ。
ひとこと挨拶、というので、最後に新人としての挨拶をした。

「本日、新採用としてまいりました。初任者ですので、ご指導くださるようお願いいたします」

どっと笑い声が起きる。

それはそうだ。
昨日まで、大きな顔をして職員室を歩き回っていた男が、急に神妙な顔つきになって、初任者でござい、というんだから。

昨年、大変に世話になった先生が、笑いをこらえている姿が目に入った。

昨日までは、臨時任用。今日からは、新採用。
一日ちがえば、世界がちがう。

挨拶のあと、職員会議。
校務の分掌が説明される。
書面を見ると、わたしは、視聴覚主任と情報PC担当。そして、視聴覚の研究会出張に行くことになっていた。

初任者研修もあるから、出張が多い年になりそうだ。覚悟しなければ。
教室に残される子どもたちがかわいそうだが、制度上、仕方があるまい。

他の先生が心配してくれる。
「先生、出張だらけじゃない」

出張の間、子どもたちに何をさせるか、ずいぶん考えなくてはならないだろう。


会議の後、同学年を組む、相棒の先生といっしょに教材を選ぶ。
教材会社が、おおくの教材を運び込んでいる。
子どもたちの実態に合わせて、もっともふさわしいものを選んでいく。
この作業は、他の先生たちは、午前中に終わらせていた。
初任者の私と組んだために、相棒の先生は、午前中はこの仕事が出来なかったのだ。
初任者と組むと、相手の出張を考慮しなければならず、その面の苦労が1年間つづくことになる。

「すみません。待っていただいていて・・・」
「いえいえ。先生は初任ですもん」

作業が終わると、夜の7時をとうに過ぎていた。

相棒の主任が、始業式前にやったらよいことの一覧表をくれる。
このメモを見ながら、すべてを進めていくのだ。
こうしたメモがあれば、助かる。ありがたい。


この後、初任の私は、職員室に戻り、自分の席を整える。
まだ、何も入っていない引き出しに、鉛筆など文房具からそろえていく。
他の人たちは、これも午前中にやってしまっていた。
つまり、出張が多い分、初任者は、すべての作業が後手後手になる。
全体から、ワンテンポ遅れてしまうのだ。

「ようし」

上着を脱いで、Yシャツのそでをまくった。

分掌のファイルやノートを引き出しに。
教材資料や判子類をしまう。
直近のスケジュール表、それに、職員会議の資料を、平たい引き出しに入れて、すぐに取れるようにする。

あれこれしているうちに、時計を見ると、9時。
残っていたもう一人の年配の先生と、帰ろうか、と話す。
扉を閉め、職員玄関の鍵をしめた。

校舎の電気が消えると、街灯のあかりが目立って見える。



さあて。


明日も出張。初任者の研修、1日目が始まる。
さあ、人生に一度しかない、初任者としての1年が始まっていく。




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